2 夕食

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*** 「とりあえず、合格、なのかな」  おふとんに入ったわたしは、食堂で交わした契約について、ずっと考えている。NOという答えはなかった。引き受けるしかなかった。迷わず、サインをした。  葛葉から、さらに絵を描くようにお願いされた。 「しかし、今度の指定は、色鉛筆!」  絵のテーマでテンと口論になりかけたのに、色鉛筆画についての注文は一切なかった。わたしが聞いても、笑ってはぐらかすだけで、答えてくれなかった。 「葛葉さんが気に入りそうな絵……か」  どんな絵が、色が好きだろうか。どこかに飾るんだろうか。プレゼント用だろうか。床の間にある、梅の絵みたいなのが、趣味? しろうとっぽい感じがいいのかな。  二十四色の色鉛筆、どうやって使おう。紙は引き続き、狐のときに渡された画用紙。  そして今日、はじめて会った人。葛葉という女性が、ほとんどつかめていない。  生きている人間の命を取る……そんな物騒なことが、ほんとうにあるのだろうか? そもそも、そんなこと、できるのだろうか?  どう延長しても五日が限度、というのは五日後に宿泊の予約が入っているためらしい。 「また狐じゃ、工夫がないし」  明日、葛葉に密着取材しよう。それか、テンに聞いてみる。  たぶん、この依頼で葛葉が満足したら、わたしの夢は叶えてもらえる予感がする。  なんだかよく分からないけれど、葛葉とテンはわたしの名前をとても気に入ってくれている。  だからきっと、縁がある。じゅうぶん、見込みがある!  最後のチャンスだと思って、しつこく、なにがなんでも齧りついて、がんばろうっと! なるべく三日以内で。 「あ。おふろ……入り忘れちゃった……歯はみがいたから、まあいいか……眠い」
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