3 外出。観光。もしかして、デート?

3/15
426人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
***  さあ、お散歩だ、テンと! 違った、絵の題材探し!  動きやすいよう、パンツ姿にした。そして、スケッチブックをかかえる。 「はっ! これって、デートじゃ……!」  今さら、動揺する私。でも、リアル年齢でははるかに年上? らしいが、見た目では年下の美男子。 「きょうだいになっちゃうかも」  テンと一緒に歩くのには気をつかう。  葛葉とテンの仲は絶対にあやしい。宿の女主人とその従業員、だけではない感じが漂ってくる。  片思いかもしれないし、両思いかもしれない。昨夜、貂に戻ったテンを見つめていた葛葉の目は、慈母のようだった。『もと同僚』の間柄だけではないと、推測する私。 「親子? それとも、お……オトナの関係?」  ぶつぶつ言いながら、わたしはコートを羽織りながら部屋を出る。  玄関の土間では、テンが待っていてくれた。  全体的に黒基調の服だが、細身のジャケットとパンツが超お似合い。ふわふわな黒いマフラーも、ベレー帽もかわいい。  あなた、その姿で京の町を歩いたら、全世界の女子が悶絶するよ……と言いたいけれど、待たされていて機嫌が悪そうなのでやめた。 「お、お待たせいたしました……」 「じゃあ行こう。これから、合図をするまで、目をつぶってくれるか。このあたりは道が複雑で、まぶしい時間帯なんだ」 「まぶ、しい?」  昨日、来たときは夕暮れだったので、まぶしくはなかった。  午前中だけ、やけに日の当たる物件なんだろうか。そういえば、宿の窓はひとつも開いていないし、障子もぴったり閉められている。  それでも、室内はじゅうぶんに明るい。真冬なので、疑問に感じなかった。  そして、テンはなんのためらいもなく、わたしと手をつないだ。 「ひっ?」 「離れないように」  ……そうだよね。事務的な手つなぎだよね。昨日も袖を引っ張られたし。  わたし、もうすぐ三十に手が届きそうな歳なのに、いちいち心をざわざわさせてどうする。 「よろしくお願いいたします」    わたしは、テンの手を握り返した。冷たかった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!