1 こあん、どこ?

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 荷物を駅のコインロッカーに預け、観光案内所で教えてもらったバスに乗り、ひとつ目の候補地・一条通に到着。 「わりと普通の商店街……」  しかし、一本路地を奥に入ったところに、件の宿があるかもしれない。大きな看板なんて出ていなさそうだし。小さなサインぐらいならあるかもしれない。  わたしは、名前しか知らない宿を探す。  よくよく考え直してみると、途方もない作業だ。  宿ではなくて、写真家の親戚宅だったなんてオチかもしれない。  夢が叶うなんて広まったら、絶対に予約殺到だろうに。  ゆっくりと、ぶらぶらしてみる。  正式名は、大将軍商店街。通称、一条通妖怪ストリート。歩くだけでも、一条通はおもしろかった。妖怪の行列……いわゆる百鬼夜行があったとされる場所で、店舗の前などに妖怪の模型が飾ってある。  何度か、歩いている人やお店の人に尋ねてみた。みんな、同じ対応。 「知らんなあ」  そして、よそさんのわたしに、一条通商店街のよさを熱く語ってくれる。  あたたかい、いい場所だった。いかにも、地元の方が使う商店街。京都市内の大観光地や繁華街とは違った、穏やかな時間が流れている。目指している収穫はなかったけれど。  気を取り直して、次は『あわわの辻』。  なんのことだかよく分からない地名なので、軽く検索してみた。便利な世の中になったものだ。端末さえあれば、情報だって地図だって出てくる。この勢いで、狐庵も見つかればいいのに。  あわわの辻。 『あわわ』とは、異形のものを見たときに驚くさまを示しているようだ。ふだんは使わないけれど、『きゃっ』とか『うぎゃあ』的な感覚らしい。その『辻』……交差点だ。化け物に出遭ってびっくりした交差点、こんな解釈が妥当か。  しかし、現地に行って、わたしが驚いた。 「あわわ」  地図で見て、まさかと思ったものの、令和の現代日本では、あわわの辻が消滅していた。  目の前に堂々と構えているのは、二条城。  一応、観光客に混じってわたしも入城してみたが、もののけが出そうな面影はさっぱりない。観光観光していて、明るい。  化け物が出てくるあわわの辻、この世とあの世の境目にふさわしいけれど、ここではない。  しかも、お城の向かいには立派なホテルがでーんと建っている。  一応、周辺で聞き込みをしてみたけれど、手掛かりはまるでなし。一条通よりも人も車も往来が多く、淡々としていた。
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