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案内された部屋は、ごくごく普通の六畳間だった。
中央に、ぽつんと小机がある。座布団も一枚のみ。壁面には、押し入れ。たぶん、寝具が入っているのだろう。
床の間に掛け軸が飾ってある。梅の花の絵だ。日本画家のはしくれである私が、正直にもの申す。黒い枝に可憐な花。雪が降っている。味わいはあるけれど、しろうとくさい。以上。
テレビもエアコンもない。
窓際に寄って障子を開いてみたけれど、眺めは坪庭らしかった。外の様子は窺えなかった。
日が暮れたので、暗い。いやに暗い……夜だから当然なのに、外の街灯もご近所さんの家の明かりも見えない。不安になる暗さ。
ううん。あまり、深く考えないほうがいい。うん。
「葛葉さんは、ここをホテルって言っていたけど」
おふろもトイレも共用だという。好意的に見ても、旅館。宿坊かもしれない。というか、むしろ独房?
今どき、中高生の修学旅行だって、もっといいところに泊まる。
いやいや、よそう。泊めてくれたのだ。貸し切りだ。今はそれだけで助かる。感謝しなければ。今夜じゅうに仲よくなって、夢を叶えてもらうぞ! よし!
「あ。料金の確認しなかった」
ぼったくられたらどうしよう。ぼったくられたらどうしよう。ぼったくられたらどうしよう。ぼったくられたらどうしよう。しつこい、以下略。
簡単な食事の準備ができたら、テンが呼びに来てくれることになっている。あとで、聞いてみよう。そして、夢が叶う件も、ぜひ!
「ちょっと横になろうっと」
歩き通しだったので、脚が痛い。足の裏がじりじりする。畳の隅に置いた荷物もほどかずに、わたしは座布団を枕にして寝てしまった。
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