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4 式占町の坂上家
翌日の午後。わたしたちふたりは、葛葉たちが住んでいたという町へ向かった。
午前中のわたしは、ああでもないこうでもないとうなりながら部屋にこもって、ずっと絵を描いていた。テンが家事で忙しいと言うので。葛葉は葬儀社に出勤。
式神って、ほんとに忠実に仕える。使える! ご主人さま・伊織が『母のお世話をしてあげて』と、テンにささやいたらしい。
前日のように、目をつぶって道をくねくね歩くのかと思ったけれど、午後はホテルの場所と現実世界が、すぐつながっているらしく、普通に歩いていつもの道に出られた。
テンと手をつなげなくて残念。美男子成分を補給できなかった……なんて思っている自分がいる。
最寄りのバス停からバスに乗って、目的地を目指す。
「まずは土地神に挨拶だ」
「社紋が☆!」
安倍晴明を祀った、晴明神社へ。
現在では、スマートなコンクリートでがっちり固められたお社は開放的で明るい。修学旅行の学生服姿も多い。☆のお守りを買い求めるようで、社務所が混雑している。
陰陽師が登場する小説やまんがに加え、国民的某スケート選手の影響もあるだろう。
スーパーパワーを持った陰陽師の神社である。あやかりたい。お願いごとは、『葛葉さんに認められますように』一択。
「で、葛葉さんのところは、どうして『坂上』なんですか。かの陰陽師の末裔なら、『あべ』ですよね、安・倍!」
「お前は、田村麻呂を知らないのか」
「田村、麻呂さん?」
「否。田村麻呂。坂上田村麻呂」
「さかのうえのたむらまろ、長ーいお名前で」
「京の都を守護している将軍だ。清水寺の創建者でもある」
「え。そうなんですか、知らなかった!」
「今どきのヒトは、これだから困る」
「えへへ。今回、覚えました。田村さんですね」
「征夷大将軍だ。坂上田村麻呂」
へえ、名字がふたつあるようなお名前だこと。わたしは感心した。
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