ドラキュラさんと私のベッドタイムストーリー

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 そこでミリは前の家から持ってきた三冊の本を代わる代わる読んでいました。ランプは部屋に無いので月明かりだけが頼りです。  そんな暮らしを三ヶ月続けていた時でした。  深夜、窓をコンコンコンと叩く音に気づきました。 「何かしら」  草木が突風で舞ったのか。そんな事を考えながらミリは窓に近づきました。  そこには端整な顔をした青年が立っていました。 「どなた?」  青年は白いシャツに黒いズボン。それに黒いマントをつけていました。  まるでいつも読んでいる小説に登場するドラキュラのようです。 「貴方、ドラキュラさん?」  なぜだか、すんなりとこの言葉が口から出てきました。それは作り物のような美しさの青年の顔立ち故だったのかもしれません。  青年は少し驚いた表情をすると口を開きました。 「驚かないの?」 「驚いているわ」  ドラキュラはすこし間をあけて口を開きました。 「君、いつもこの家の人達に虐げられているね」 「見ていたの?」 「夜だけ、ね」  ミリは窓から離れ、ドアを開けました。 「こんな寒い中では辛いでしょう。どうぞ入って」  ドラキュラは目を丸くしました。 「いいのか? ドラキュラだぞ? どうなるか知らないのか?」  ミリは小首を傾げた。 「小説のドラキュラは知っているけど、あれはフィクションでしょう? 真実は貴方の口から聞きたいわ」  実際、ミリはどうにでもなれ、と言う気持ちでした。もし小説同様自分もドラキュラになってしまってもそれは本望だと思いました。ここからぬけだせるのなら。ミリの心はそれほどまでに疲れ切っていました。  ドラキュラは躊躇いがちに部屋に入りました。 「何もない部屋なんだな」  ミリの住んでいる小屋には硬いベッドと毛布、ボロボロになっているカーテン、粗末な机と一脚の椅子しかありませんでした。 「貴方はこの椅子に座って。私はベッドに座るわ」  ミリはふふ、と笑った。 「ようこそ。私の部屋の初めてのお客様よ」  この国では氷の心を持つと形容されるドラキュラも少し胸がチクリとしました。 「ドラキュラさん、なんのご用?」  ドラキュラは椅子に座りミリの目を見ました。 「本当はお前をドラキュラにしようと思ったんだ。けど、止めた」 「どうして」  立ち上がるミリにドラキュラは片手を上げ制した。 「ドラキュラも辛いんだ。なまじ人間より長く生きるからいい事もあるけど嫌な事もある。お前は優しすぎる。ドラキュラに向いていない」 「ドラキュラに性格なんて関係あるの?」 「当たり前だろ。縄張り争いとか、食事とか諸々」  自分はドラキュラにすらなれないと分かってミリは落ち込みました。 「でもまあ、友達にはなれるよ」 「本当?」 「ああ。ドラキュラの中でもルールってもんがあるけど人間と友達になるくらいは大丈夫だろう」  ミリは駆け寄った。 「ありがとう。なんだか胸の中に花が咲いたみたいに嬉しいわ」  その日から毎晩ドラキュラが小屋を訪ねてきました。ミリはその日あった出来事や昔あった楽しかった事を話しました。話す中でも愚痴は何一つ言いませんでした。  ミリはドラキュラと居ることで母親が死んでから初めての安らぎを感じました。
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