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そのにこやかな人懐こい笑顔は、どうやら中身のしたたかさをカモフラージュするためのものらしい。
半ば脅される形でホテルのラウンジへと付き合わされることになった鷹城と陽太だ。
しかし、陽太はジョギングの最中に拉致されたわけで、身につけているのはヨレヨレのジャージにスニーカーだ。
格式高いホテルのラウンジにはそぐわない…どころか、ドレスコードに引っかかり追い出されるのでは。
そう思った陽太は、鷹城に、自分は帰るから二人で話して欲しい、と告げた。
というか、とにかくもう、このホテルのエントランスというとてつもなく目立つ場所で、子どもみたいに抱き上げられてる状態から解放されたい。
いくら小柄だと言っても、陽太は大学生男子だ。
鷹城がどんなに大男でも、さすがに抱っこされるような年齢じゃない男を腕の中に収めているのは明らかで、衆目を集めないわけがない。
「What?」
鷹城は、陽太が何を言ってるのか理解できない、と言わんばかりに首を傾げる。
「せっかく君に会えたのに、帰すわけねえじゃん?」
そもそも君は、ちょっと目を離すとマジ危なっかしすぎだし。
ホテルなんかにホイホイ連れてこられて、そーゆーとこが純粋で素直で天使でたまんなく可愛いけど、世の中には悪い人もいるってこと、もーちょっと知って貰わねえと。
まあ俺も、君のそーゆーとこにつけこんだ「悪い人」なんだけどさ。
「とにかく俺は、陽太と一緒じゃねえと話は聞かない。だから、ドレスコードのあるラウンジはダメだ、ジョシュ。マジでウゼェけど、お前の部屋でいい」
二人のやり取りを黙って眺めていたランドルフは、小さく肩を竦めた。
『正気か、セージ?片時も離したくないほど大事な相手なのに、どうしてボディガードもつけずにその辺をフラフラさせているんだ?』
日本語で、と言われたのに、恐らくあえての英語で、彼は幾分皮肉げにそう言った。
鷹城も英語で答える。
この話は、陽太にはあまり聞かせたくなかったからだ。
『ここはアメリカじゃない。日本ではボディガードをつけるだとか一般的じゃねえし、俺はこの国ではひっそりと生きてる一般市民なんだ、そこまでのセキュリティは必要ない。それに、彼には窮屈な生活なんてさせたくない』
『総資産数十億ドルを超える男の溺愛する恋人にボディガードが必要ないだって?誘拐の心配はないのか?日本はそこまで平和な国だとでも?』
『今は夏休みで都心に戻ってきているが、普段は更に犯罪に巻き込まれる可能性の低い地方都市で生活してる。お前のような奴が来なければ、何も問題はないんだ』
鷹城はそう言うと、話している内容はよくわからないものの何か揉めているような雰囲気に不安そうな顔をしている陽太に微笑みかける。
「やっぱり、ジョシュの部屋なんか行かねえで、俺たちも部屋を取って、今日はここにお泊まりデートしちゃおっか?」
「え?え…ええ?!えっと、その、今日はさすがに実家に帰らないとダメです……今日帰省するって親に言っちゃってますし」
アワアワとそう言う陽太に、彼はデレデレと目尻を下げた。
「カーワイイな陽太、マジ天使、ああ、ジョシュなんか放置して、君と今すぐイチャイチャしたい」
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