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陽太はノロノロとベッドから起き上がった。
自室を出て、キッチンで麦茶を飲む。
それから、ふと思い立った。
タロウはいないけれど、久しぶりに散歩ルートを軽くジョギングでもしてみようかな?
身体を動かせば、このモヤモヤした気持ちも少しは吹き飛ぶかもしれない。
自室に戻って、古いジャージをクローゼットから引っ張り出す。
タロウとの思い出がつまったジャージは、捨てるには忍びなかったけれども、新居に持っていくのもどうしようかと迷って、結局そこにひっそりとしまったままだったのだ。
着替えながらそれが、何着かあるジャージのうちの、鷹城と出逢ったときのものであることに気づく。
無意識に選んでしまっていたのか。
そんな自分に苦笑しつつ、彼は耳にイヤホンを突っ込んで、玄関でスニーカーを履いた。
流れてくる音楽は、もちろんOriental Blueだ。
ボーカルのアオイの力強く甘い歌声と、鷹城の作る脳髄を直接掴まれるような聴く人を惹き込む旋律が、陽太のマイナスな気分を少し引き上げてくれる。
陽太は体格こそ小柄だけれども、運動神経は悪いほうではない。
小さな頃から毎朝タロウの散歩をしていたし、ただ歩いて散歩するだけでなく走ったりじゃれたりして遊んでいたので結構な運動をしていたわけで。
しかし、瞬発力はまあまああるほうだと思うけれど、何分小柄ゆえに持久力があまりない。
そして、七月の夕方はなかなか陽が落ちない。
最も暑いピークの時間帯は過ぎたとはいえ、まだ明るいこの時間に走るのは無謀だったかな、と陽太は早々に後悔し始めていた。
北海道と違って、東京はやっぱり暑い。
それも、湿度のあるねっとりとした嫌な暑さだ。
鷹城はもちろんまだ帰宅していないだろうから、彼のマンションの前まで走ったら折り返して帰ろう。
あっという間に汗だくになってしまった陽太は、そう決めた。
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