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「Hi,Seiji.Long time no see!」
タクシーを降り立って、ランドルフは嬉しそうに両腕を広げ、明らかに怒りのオーラを放っている鷹城をハグしようとしたが。
「陽太」
鷹城は、その腕を無視してすり抜け、ランドルフの後ろに立つ陽太をギュウッと抱き締めた。
「このイカレた男に何かされなかった?ああ、もう、相変わらず殺人的に可愛いな……五時間ぶりだっけ?ジョシュはすげぇムカつくけど、君に会えたのはラッキーハプニングってやつかも」
いい匂いする、ふーん?ジョギングで汗かいた?
陽太の汗の匂いを嗅いでるだけでエロい気分になっちゃうな。
耳許にそんな羞恥を煽るようなことを囁かれて、陽太はじたばたともがく。
そうでなくても、頬擦りして鼻を擦り合わせ、今にもキスしそうな勢いの鷹城に、タクシーのドアを開けてくれたドアマンが、ギョッとした顔をなんとか平静に戻そうと努力している姿が、視界の端にチラチラ見えているのだ。
しかし、もちろん鷹城は、愛しい恋人を離すつもりは更々ないらしい。
小さな子どもを抱き上げるように、ひょいと片腕で陽太を抱き上げて、まるで数年ぶりの再会ででもあるかのような恋人同士の熱烈な抱擁を呆れたように眺めていた男を振り返った。
実際には、陽太と鷹城は数時間しか離れていなかったし、ランドルフこそが数年ぶりの再会だったというのに。
「何しに来たんだよ、ジョシュ?俺にはお前と遊んでる暇はねえし、とっとと帰れっつの」
幾分冷ややかに、しかも日本語で、鷹城は旧友に言い放った。
『やれやれ、冷たいな……私はセージに会うためだけに、14時間も飛行機に揺られてきたっていうのに』
対するランドルフは、英語だ。
「郷に入っては郷に従え、って諺を知らねえのか、ジョシュ。言っとくけどさ、そのまま英語で会話を続ける気なら、俺はお前と話をする気はねえよ」
英語のほうが、おそらく鷹城にとってもランドルフにとっても会話しやすいはずだけれども。
腕に抱いた恋人が疎外感を覚えるのでは、とさりげなく気遣ったのだ。
『よく言う。日本語でだって話す気ないくせに……それほどその子猫ちゃんが大事なわけだ』
英語でブツブツと文句を言ったランドルフは、しかし、すぐに日本語に切り替える。
「こんなところで話すのは邪魔になる。ラウンジに行こう」
そして、ニッコリと人懐こい笑顔になった。
「行かない、と言うのなら、何度でも君の恋人につきまとうだけだ」
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