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家へと送って貰うタクシーの中で、スマホをランドルフに取られたままだということを鷹城に伝えると、彼はすぐにどこかへ電話して、後で君の家に新しい端末が届くから、と言った。 君との連絡手段がないのは困るしな。 そう言って微笑む鷹城に、スマホよりもその中に入ったままのSDカードを取り戻したい、とは言えず、陽太は後日また鷹城とゆっくり話せるときに話せばいいと思って、そのまま帰宅した。 帰宅して、まだ両親も姉も帰ってきていなかったことに少し驚く。 目まぐるしくいろんな出来事が起こったから、もう半日ぐらい経ったような気がしていたけれども、実際には、ジョギングするために家を出てから三時間に満たない程度しか経っていなかったのだ。 なんだか酷く疲れた。 陽太は、とりあえずシャワーを浴びて、ついでに帰宅する家族のために湯船を洗ってお風呂を沸かす。 お風呂に浸かったおかげで少し元気が出て、ホカホカしながらリビングでぼんやりテレビを見ていたら、玄関のチャイムが鳴った。 早っ!ケータイ、もう届いたんだ。 そう思って、確認もせずにドアを開けてしまう。 よく考えたら、マンションに来る宅配便は一度エントランスからチャイムを鳴らし、在宅を確認してから各戸に配達に来るのに。 「やあ、さっきぶり」 ドアを開けたら、立っていたのは赤髪翠瞳の男。 さっき別れたばかりのランドルフだった。 「君のコレ、返すの忘れてたと思って」 彼はそう言って、陽太のスマホを差し出す。 「あっ、ありがとうございます……」 陽太は、思わず礼を言ってしまってから、うん?お礼を言うのはなんか違うな?と思ったものの、返して貰えることが嬉しくて、差し出されたそれを受け取ろうと手を伸ばした。 だから、何でランドルフが陽太の実家のマンションを知っているのか、とか、エントランスの集合玄関からではなくいきなり家の前に現れたのは何故か、とか、そう言ういろんな不審な点にすぐには気づけなくて。 伸ばした手は、だけど、サッとかわされて、空を切る。 「君、少しは警戒心を持ったほうがいい……本当に日本という国はそこまで平和なのか?」 呆れたように、ランドルフは呟いた。 スマホを持った手を高く掲げられると、背の低い陽太には届かない。 そこで初めて、陽太は何かおかしい、と疑念を抱く。 しかし、そのときにはもう、ランドルフの靴先がガッチリ玄関ドアの内側に入り込んでいて、今更ドアを閉められない状態になっていた。 これ、漫画で読んだ一昔前の新聞の勧誘の人とか借金取りの人がする技みたいだ。 ぼんやりとそんなことを考えて、なんとなく感心してしまった陽太は、それでも真っ直ぐにランドルフの瞳を見て訊ねる。 「スマホ返してくれないんなら、何の用ですか?」 さっきの鷹城との会話から、もしかしたらこの人は自分に危害を加える可能性があるかもしれない、とさすがにお人好しの陽太にもわかっている。 自分が痛い思いをするのも普通に嫌だけれども、それよりも何よりも、陽太のために鷹城が暴走して大事(おおごと)になるのはもっと嫌だった。 だから、彼にしては珍しく、少し尖った声になってしまったとしても仕方ないだろう。 ドアを引いてみて、やっぱり閉めることができないことを確認して、陽太はこちらを観察するようにじっと眺めているランドルフに重ねて言った。 「無理に入って来るつもりなら、警察呼びますよ?貴方がアメリカでどんなに偉くても、日本の警察には通用しないですからね?」 そうは言ってみたものの、半分はハッタリだ。 陽太は相手のことを何も知らないから、もしかしたらこの人が日本の警察にもコネがあるような人だったらどうしよう、と内心ドギマギしていた。 「uh-huh?あんまりにも子どもみたいな相手だから、セージには幼児趣味(ペドフィリア)でもあったのか、と心配だったけれど、そうやって駆け引きすることができるのなら、ただオドオドしてるだけのbabyというわけでもないのか」 ランドルフは、警察という言葉を出されても、さして慌てるふうもなく、そんなふうに言って少し目を細めた。 そして、ニッコリとあの人懐こい、だけど隙のない、何かをカモフラージュするかのような笑みを浮かべる。 「ワタシは紳士だ。無理に家に押し入るような乱暴な真似はしない。ただ君に、一言忠告しておきたかっただけだ」
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