78人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
第6話 娘は目を離した隙に
牧は、100年後にトリップしたとみられる未汝を追い駆けて戻ってきた。
“ 時の扉 ”の前には既に未汝の姿はなく、きっと扉を開けて王宮内に入り込んだのだろうと思われた。
いつものようにその扉を開けて、慣れた王宮内を闊歩する。
今日は休日だ。外部の人の出入りが少ないので、建物内の警備はいつもより手薄になっていた。
神官であり、王閣相談役の役職に就く晋槻文花は、休日は読書をして過ごすのが日課だ。
亡くなった父親の晋槻博明から甕の水を移すが如く細々したことまで教育され、その行動パターンも父親そっくりなところがあった。
だからきっと、若者らしくなく礼拝堂で日向ぼっこでもしながら読書に勤しんでいるだろうと牧は考え、南棟1階にある礼拝堂へと足を向ける。
予測は当たり、文花は礼拝堂で本を開いていた。
牧が入ってきたことに気が付いて、文花は「何かあったのだろうか」と首を傾げながら本を閉じ、その場に立ち上がる。
「王、過去へお戻りになられていたのでは?」
事情を知らない未汝が不審に思わないようにする為、こちらでの仕事が終わると過去へと戻るのだ。そんな牧なので、休日に王宮にいることはなくはないが、それは仕事が立て込んでいたり何か問題が発生している時で、通常の状態の時に戻ってくることは少ない。
「文花、未汝がどうもこちらへ来てしまったようだ。玄関にかけておいた” 時の扉 "の試練認証用の鍵が無くなって、家の中から未汝の姿が消えた。扉の中にも外にも姿はなかったから、王宮内をうろついていると思う。大事になる前に見つけて、例の試練の件、話をしてやってくれ」
さらりと大問題を口にした牧に、文花が目を見開く。
「それは、本当に・・・・・・・・?」
時空の法則により、姫達が同じ時を一緒に過ごすことが叶わないそのメカニズムは父親から説明されていた。
そしてもし、未汝が成人前にこちらに来てしまったら、真実を話してその試練を受けさせ、どんな結末になっても最後まで黙って見届ける役目を負う立場にあることも聞いている。
王家の補佐的立場として、晋槻家と西城家という二つの家柄がある。
この一族は代々王家の補佐をしてきた家柄だが、それぞれ補佐の仕方に特色があった。
晋槻家は神官として、国を安寧へと導くことを守護する家柄。
対して西城家はその異能を用いて国の平和を守護する家柄である。
どう違うのかと言えば、ついている側が違うのだ。
晋槻家は王を諫めて正し国を統治させるが、西城家は国が荒れたら王を殺してでも民衆を守ろうとする家柄なのである。
だからこの未沙と未汝の行く末に関しても、晋槻家が見届ける役割を負ったのだった。
「間違いないだろう。とりあえず俺は、曲者騒動が起きて大事になると困るから、王室で待機している。じきに華菜が来ると思うが、それまで未汝がどこかで捕まらないとも限らないから、探してくれ」
「畏まりました」
牧と文花は礼拝堂を出て、それぞれの目的地を目指し早足で歩を進める。
牧は南棟6階にある第一執務室(通称:王室)へ、文花は王宮内の監視映像を確認する為、中央棟の7階にある中央制御室へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!