第7話 扉を開けてみたら

1/2
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ

第7話 扉を開けてみたら

 時は少し(さかのぼ)る。  どれだけ(さかのぼ)るかと言えば、未汝が自宅玄関からトリップし、“時の扉”の前に辿(たど)り着いて、どうしようとぐずぐず悩んでいた時までだ。 「写真の心配しててもしょうがないか。とりあえず、帰る方法を探さないと」  仕方なく、扉を開けることを選択した。  キイィと立派な扉を開いて、外に出る。どこかの部屋と思われる光景が、未汝の目に飛び込んできた。  敷かれた朱色の絨毯(じゅうたん)、壁紙は温かみのあるクリーム色で統一され、右手側にはスライド式のドアがついた、ガラスで仕切られた部屋が一つ。中には何かの制御装置なのだろうか、機械やモニターが沢山並んでいた。  ――ここがどこなのか、(さぐ)らなくちゃ。  少しだけ部屋のドアを開けて様子を伺い、コソコソと部屋を出ると、その部屋は突き当たりらしく、片側は壁、もう片側は長い廊下が続いている。  今出た部屋のドアを見上げると、そこのプレートには “ 時の扉 ” と書かれていた。  長い廊下へ目を向けると、随分と殺風景な景色が続く。まるで資料保管用倉庫のような、白を基調とした壁紙に、上下に下げるタイプのドアノブがついた戸がいくつか並んでいた。  キョロキョロと見渡しながら歩くと、隣の部屋のドアの上には、中央制御室とプレートがかかっている。  ここなら、この場所の全体像を把握できるかもしれない。全体像が分かれば、ここがどういう所なのか推測できる可能性がある。  だが、制御室と言えば通常、警備員がいるのではなかろうか。ここがどういう所かは分からないが、無断侵入者として捕まったり、なんてことを考えると、迂闊(うかつ)にこの部屋へ足を踏み入れるのは良くないかもしれないと、開けようとしたドアノブから手を離した。  かと言って、むやみに歩き回るのも危ない気がするのだ。  やはり、この中に人がいるかどうかを確かめてから、次どうするかを考えても遅くはないと、自分の危機意識が主張する。  幸い、この中央制御室のドアの向かいには、プレートの(かか)げられていない部屋がある。そっと開けてみれば、そこは物置状態の部屋だった。  この部屋のドアを半開きで固定し、未汝は物置部屋に置かれていた掃除用の長帚(ながぼうき)を手にして覚悟を決める。(ほうき)()を伸ばし、コンコンと中央制御室のドアを叩いてから、静かに、しかし迅速に物置部屋のドアを閉める。  息を(ひそ)めて向かいの部屋の様子を(うかが)うと、ドアが開いた気配はない。  そっと手元のドアノブを下へ引いて、少しだけ開けて廊下を覗くと、やはり誰もいないし動く気配も感じられなかった。  ――もしかして、誰もいない?  それならチャンスだ。  (ほうき)を持ったままその部屋を出て、向かいの中央制御室のドアを少し開けて中を覗き込む。  監視カメラの映像らしき画像が、物凄い数並べられたモニターに映っている。だが、やはり室内に人の姿はない。  未汝は(すべ)り込むように部屋へと侵入すると、壁一面に並べられたモニターの画像を見上げた。 「何ここ、凄い広そう。一体何の施設だろう・・・・・・?」  画面に映る門は随分立派だ。  建物の内装も、どこの映像かは分からないが、洒落(しゃれ)装飾(そうしょく)(ほどこ)された照明器具や、重厚感(あふ)れる調度品、床にはカーペットが敷かれていたりして、超豪華だったりする。  かと思えば、研究所のような無機質な場所があったり、弓道や武道場など運動のできる施設もある。木々に囲まれた東屋や、どこかの倉庫にはヘリまであるようだった。  ――どっかの複合施設?なのかなぁ・・・・・・?  (しばら)く眺めていると、画面の一つに、見覚えのある人物が歩いているのが映る。 「お父さん・・・・・・?」  見間違いかと画面を凝視(ぎょうし)するが、どう見ても父そっくりだ。 「ここ、どこの映像なんだろう・・・・・・?」  時々、映像が切り替わる。  カメラが動いているのか、はたまた違うカメラの映像を映しているだけなのかは分からない。  未汝は色々な画面を見比べながら、何かヒントになりそうなものを見つけようと、目を()らした。  並ぶモニターの一番上に、南棟とシールが貼られている。その横には中央棟、東棟など建物の名前と(おぼ)しき名称が貼られていた。  未汝の手元にある、色んなスイッチがいくつもついた操作用パネルも眺めると、同じように建物の名前が記されたシールが貼られている。  ふと目を向けた先に、一冊のファイルが立てかけてあった。背表紙に、操作マニュアルと記載されている。  それを手に取って開くと、1ページ目に「竜華(りゅうか)(えん)(こく)国王宮廷見取り図」と表題のつけられた、A3サイズの図面が入っていた。 「竜華燕国国王宮廷・・・・・・?一体、何の冗談?」  未汝の時代には国王はいない。いるのは天皇だ。しかし、国名は同じである。 「過去にでも来ちゃった?あれ?過去って王制だったかなぁ・・・・・・?」  まさかねと軽く笑う。とりあえず、あの父によく似た人がヒントを握っている気がするから、会いに行こう。  未汝は、映ったモニターと図面を見比べた。 「南棟1階?今ここは・・・・・・確か中央制御室ってプレートに書かれてたから、中央棟7階になるのか。じゃあ1階まで降りるか、この辺の渡り廊下で南棟へ渡れば・・・・・・」  計画を立てて図面をファイルから抜き取り、折りたたんでポケットへ入れる。  とりあえず、あの父によく似た人を(つか)まえよう。もしかしたら、ご先祖様かもしれないし。  (ほうき)を握りしめて、少しの勇気と希望を胸に、部屋を後にする。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!