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第4話 大きな扉
地震が起きた時、未汝は階段を降りている最中だった。
天井の照明がカタカタと揺れ出し、やがて体に揺れを感じた。
未汝は階段の手すりを落ちないようにぎゅっと握って支えにし、座り込む。
結構大きな揺れだ。壁に掛けてある絵がガチャンと落ちる音がして、靴箱の上にある花瓶がガタガタと音を立てて倒れた。
暫く手すりにしがみ付いていると、揺れが止んだ。未汝は立ち上がって階段を下りる。
倒れた花瓶を直し、靴下を濡らさないよう靴を履いて、たたきに落ちた絵を拾い、濡れていないことを確認して元に戻そうとした。
だが、今まで絵が掛けられていたその場所に、見覚えのない鍵のついたネックレスが掛かっている。
「何?これ」
未汝は、絵を靴箱の濡れていないところに置いて手を伸ばし、それを手に取った。
すると周りの景色が歪み、序々に辺りの色が薄くなって、靄がかかっているかのように白くなっていく。
「何?ちょっと何なの!?お父さんっ!!お母さんっっ!!」
慌てて叫ぶが、その声は空虚な空間に響くだけで、誰の耳にも届かない。
暫くすると、見たこともない大きな扉が、目の前に現れた。
「ここ・・・どこ?」
家にいたはずだ。自宅の玄関ドアは、こんなに大きな扉じゃない。
信じられない光景を目の当たりにしながら、状況を理解すべく、未汝はとりあえず手に取ったネックレスを落とさないように首にかけて、鍵を握りしめる。
やばい、異世界へ転生したかもしれない。
葉月が言うように、一番まともな写真を写真立てに入れて、両親の目につきやすいだろう場所に置いておけばよかった――!!!
後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。確かに、先に悔やむことは出来ない。
どうしよう。何かふざけた顔して写ってる写真をビラに使われて、駅前とかで配られてたら。
この子を知りませんか?と書かれた下に、年頃の少女としてあるまじき顔をした写真が貼られ、本人の知らぬところで醜態をさらしていたとしたら……?
未汝は、ブンブンと首を横に振った。何やら、血の気が引いていく気がする。
もし無事に戻れたとしても、そんなことになっていたら、生きていけない。長い人生、居たたまれない思いをして歩まなくてはならないなんて、拷問以外のナニモノでもない。
お父さん、そういうところ絶対無頓着だろうし。
お母さんは、あら、この写真なんて面白い顔して写ってるわよ?とか言って、絶対嫁入り前の娘が恥ずかしい思いをしそうな写真を選びそうな気がするのだ。
マズイ。非常にマズイ。どうにかして早く戻らねば。
未汝は、この期に及んでまだ、そんな心配をしているのだった。
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