さよなら、優しかったあの子

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 四月。  先週、初めて訪れた小学校。校庭に植えてある桜の木は満開になっていた。この日は始業式で、全校生徒が体育館に列を作って騒めいている。 「転入生たちは前に並んで」  私は女性の先生に言われて、前を行く男の子の後を付いていった。 「七人もいるー」 「あの子、五年生かな?」  目の前でよりざわめきを大きくする生徒たち。私は最初から最後まで顔を上げることが出来なかった。  顔を上げることが出来ないのは教室に行ってからも同じだった。先生に紹介されても、私は満足に自分の名前も言わない。 「なんか暗い子だね」 「隣の男の子の方が良かったー」  席に着くとどこからかこんな声が聞こえてくる。私は俯いたまま、グッと下唇をかみしめた。 「晴香ちゃんだよね。お名前」  一時間目の国語の授業が終わると、ポニーテールの女の子が話しかけてきた。私は返事をしようとするが口から言葉が出てこなくて、首を縦に振ることしか出来ない。それでも気にせずにポニーテールの女の子はにっこりと笑う。 「私は千賀子。気軽に千賀って読んでね。先生に学校内を案内するように言われているの。音楽室とかは昼休みに案内するけど、いまは十分間しかないからおトイレだけ。私たちと一緒に行こ」  千賀子ちゃんは笑顔のまま教室の後ろのドアを指さした。私は首を振る。 「教室来るときに確認したから大丈夫」  やっとまともに出てきた声がこれ。誰かと一緒にトイレに行くのは嫌だったのだ。 「千賀ー。行こー」  近くにいた子たちが千賀子ちゃんを呼ぶ。 「それじゃ、困ったことがあったら私に何でも言ってね」  千賀子ちゃんは私のことを気にしながらも、その子たちの元に向かった。やっぱりこの学校でもグループがある。ないはずがない。  クラスをこっそり見渡すと大体四、五人のグループで固まっている。男子はまだばらけているけれど、女子ははっきりとどの子がどのグループに属しているかよく分かった。
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