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共謀
キバが足を止め、遠くから様子を伺う。
『一匹ではない』……とは?
「……あれは?」
よく見ると、波間が所々妙な具合に黒く盛り上がっていて……
ザザン!
大きな波しぶきとともに、3匹ほどの『怪物ワニ』が飛び出してきた。大きさはさっきと同じぐらいだ。かなりの巨体……!
そして、その内の2匹がアイの足に、残る1匹がアイトレに襲いかかる。
「……っ!」
思わず、カムイが歯を食いしばって目をそらす。
この距離からでは、もはや何も出来ない。
あっという間に、アイトレは海中に没した。
そして、アイも。
3匹の『怪物ワニ』に食いつかれたまま、海中に引きづりこまれて行った。
辺り一面の海水が真っ赤に染まる。
後には、波打ち際からこっちの様子を伺っているキラウの姿だけがあった。
《間に合わなかったか……》
キバが呟く。
「……。」
カムイは、何も言わずに海を見ていた。
その硬く握られた拳は、微かに震えていたが。
波打ち際にいたキラウは、尚もこっちの様子を気にしているようだった。ここで下手に浜に上がれば、キバに狙われる恐れがあると見たのだろう。
何しろ、鰭脚類が相手ならば獣脚類であるシキテの方が遥かに早く走れるのだから。
《どうする? 近寄ってみるか?》
キバが首の上に座るカムイに尋ねる。
「そうだな……少し気になる事がある。近寄ってみるか。気を付けてな」
カムイがポンとキバの首を叩いた。
ゆっくりと、方向を逸して波打ち際を避けながら慎重に近づく。
キラウはその場から動かずじっとしている。海中にいればキバが襲って来ない事を知っているのだ。
「ね……ねぇ、『気になる』って何?」
恐る恐るカムイに聞いてみる。
「……『ヤツら』は群れない。あんな風に3匹も一斉に襲ってくるのを見たのは初めてだ」
「そう……あの『ヤツら』って、名前はあるの?」
『シキテ』や『キラウ』に種族の名前があるすれば、彼らにも名前がありそうだが。しかし、その答えは意外だった。
「さぁな……俺たちは『ヤツら』としか呼んでいない。ヤツらは『ジン語』を使わないから彼らの名前は誰も知らないんだ。仲間と群れて行動する事がないので、言葉を使う必要が無いんだろうな……だから、ああして『仲間と連携をとる』事は無いはずなんだが……」
カムイはじっと、キラウの方に視線を向けている。
「恐ろしいの?『ヤツら』は」
「ああそうだ。こうして白波が立つ時は、ヤツらは波間に姿を隠しやすい。そうして波打ち際に寄って来たシキテや小型の肉食竜を、あんな具合に飛びかかって仕留めるのさ……だから、風が吹くと俺たちは海辺に出ない……」
キラウはじっと、こちらを見たまま動こうとしない。
「キラウはヤツらに襲われないの?」
見たところ、キラウは平気なようだ。
「ヤツらはキラウを襲わない。キラウを見逃せば、アイのような肉食竜が誘き寄せられることを知っているのだろう……」
そうか。
『ヤツら』と『キラウ』。彼らもまた『人間』と『シキテ』のように、共生する間柄にあると言えるのか。
……つまり、キラウがあの場所から動かないという事は『まだヤツらが近くにいる』という事なのだ。
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