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沈む
小屋に戻った私達は、今日の獲物を皆で分けて食べた。
何しろ物が大きいのだ。いくら食べても簡単には無くなりそうにない。『次はいつ食料が手に入るか分からない』というのも頭に入れて、とにかく食べられるだけ食べた。
本当を言えば、こんな時は宴会なのであろう。しかし、コタンの父親であるアイトレと、キバの仲間であるアイを失ったショックで皆、言葉が少なかった。
焚き火の煙が夜の空を哀しく焦がす。
見上げた天空には、満天の星空が広がっていた。
あまりに多くの事柄が一度に起きて、頭の中で咀嚼が追い付かない。
……今、何から考えればいいのだろうか。
ジャーレット教授が言い残したセリフが気にかかる。
教授は『シキテと組んだ私』に、何を隠そうとしているのだろうか。 イヤな予感がしてならなかった。
「コタン……大丈夫かしら?」
父親の訃報を聞き、小屋の中へ早々に引き込んだ幼子を気遣う。
私の隣では、カムイがまだ骨についた肉を齧り取っている。
「……いくら悔いても過去を変える事は出来ん。受け入れて乗り越えるしかない」
突き放すような物言いに、私はムッとしてカムイの顔を睨む。
が……
「俺もそうしてきた。……父と母は、ともに『アチカ族』という巨大な翼竜に食い殺されたからな」
「そ……それは」
息を呑む。やはり、彼らは単なる家族ではないのだ。
「俺やコタンだけじゃない。エサシもイタキも……元は別の一族に居たのだ。それが竜に襲われるなどして離散した結果、こうして固まっただけだ」
ふと、カムイが悲しげな目つきをする。
「……余所者のお前達を除けば、もはやこの島に残っている人族は我ら4人だけだろう。他に人族を見たという話はもう何年も聞いていない。俺達が、最後の生き残りなんだ」
「……っ!」
何という事……。
彼らが何時からこの島に居るのか知らないが、この島で生き残るとはかくも難しい事なのか。では、彼らが年老いて寿命を迎えたり、アイトラのように襲われて命を落とせば。
……この島から人は絶滅するのか。
「いや……ワシらだけじゃないのだ、金色の人よ」
エサシ老が焚き火の傍にやって来た。
「え……『人だけではない』とは?」
その問いかけに、火に炙られたエサシ老の顔に影が差す。
「……この島は、そう遠くないうちに沈む。そういう運命なのじゃ」
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