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「えぇ!し……沈む……って……!」
言葉を失う。
この広大な島が『沈む』とは……?
「遥か昔に我ら人族が渡って来たときから少しずつだが、年々……海が陸地の奥に迫ってきておる……ここ10年で、ここから海岸まで出るのに必要な時間は半分にも減った……」
そう言えば。私は昼間の事を思い出していた。
最初にキバと出会った竜道には、本来は海の近くで生息しているはずの『キラウ』の足跡があった。
それは、海からそこまでの距離が短い事を意味している。
「ど……どうするの?」
険しい顔で下を向くカムイに、聞いても仕方の無い事を聞いてしまう。
「どうもしない」
ボソリと、カムイが呟く。
「明日の獲物だって、どうなるかも分からないんだ。先を案じたところで俺達には何をどうする事も出来ん。だから在るがままに今を受け入れる。だだ、それだけだ」
「そんな……」
それは、『閉ざされた島』に住む者の『諦観』とでも言うものだろうか。
その時だった。
背後にある茂みの陰から、しわがれた声が聞こえてきた。
《その運命に……抗う者達がおる……》
「誰っ?」
驚いて振り向いた先に居たのは、昼間に出会ったあの『コサ族』の長老だった。
「コサの長か……どうしたのじゃ?こんな所に」
エサシ老が眉をひそめる。
《……?》
傍で眠っていたキバが、薄っすらと眼を開けた。
ガサリと音を立てて、コサが広間に足を踏み入れた。
《……皆、キバの元に行くのを恐れてな……ワシが行くことになった》
「あ、あなたは!……昼間、私に『キバのところへ行け』と言ってくれた方ね?……『抗う者達』って、どういう意味なの?」
《……翼竜が、キラウ達の話を聞いておったらしい。彼らは……キラウ達は一斉にこの島を出て『父なる大地』を目指すと決まったそうじゃ》
「何だって!」
カムイが立ち上がる。
「そんな馬鹿な! 太古の昔に我々の祖先が『父なる大地』から来た時代にはこの島と大陸は繋がっていたそうだが、今やその影すら見えないほど離れているというのに。確かに彼らは泳げると言えば泳げるだろうが……それは無理だろう!」
《……キラウ達に『それが可能だ』と知恵を授けた者がおる》
「……っ!」
それが誰を意味しているのかは、聞くまでもない。
そう、ジャーレット教授が言っていた『話す事はない』というのは、まさに『それ』なのだろう。
教授は長くこの近くの調査をしている。もしかしたら、この島の事を知っていたのだろうか。『沈み行く島』だと。
カムイの言う通り、私達が現地調査をしていた『ジン族の住む大陸』は、この島からかなり離れている。船ならともかく、泳いで渡るような距離ではあるまい。
しかし、強い『海流』があれば話は別だろう。
流されるだけなら、体力をかなり温存出来るはずだ。何日掛かるか知らないが、大陸に漂着出来る可能性もゼロではない。教授は船乗り達とも長い付き合いだろうから、その情報を知っていても不思議ではないが……
『悪魔が住む』というこの島に居ては、助けを期待する事は出来ない。教授はキラウの大移動に乗じて海を渡り、大陸への帰還を果たすつもりなのか。何と大胆な!
だかそれは、この島からキラウが『絶滅する』事を意味している。間違いなく、この島の生態系に大きな影響を与えるだろう。
一度バランスを崩せば、それは崩壊への速度を早める結果となる恐れとてある。
《金色の人よ。彼らを止める方法があるのなら、どうか食い止めて欲しい。さもなくば、この島の滅びは更に進むだろう》
「そんな……」
コサの嘆きを前にして、私は途方に暮れた。
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