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サルナシ
翌朝、私はカムイに頼んで昨日獲ったカイクの内臓と血の一部を大きな袋に詰め、そのままカムイと共にキバの背に乗って海岸を目指した。
……私の想像が間違っていなければ。
いや、もはやそれに賭けるしかないのだ。
途中から、コサの長が私達に加わった。
何も言わず、後ろから着いてくる。
……いや、コサだけではない。離れてはいるが、他の竜族達も背後から来ているようだ。皆、この島の行く末が心配なのだろう。頭上では、翼竜達も旋回しながら見守っている。
やがて潮の香りとともに、あの海岸に出た。
そこはすでに、キラウ達の群れで溢れかえっている。
時折、気合いを入れるように大きな雄叫びを発する者がいる。異様な雰囲気だ。やはり、全員で海を渡るつもりなのだろう。
私はキバの上からジャーレット教授を探した。
「いた……あれだわ。キバ、教授の元に向かってくれる?キラウ達を刺激しないよう、ゆっくりとね」
《うむ……》
群れの中へ、歩を進める。
おびただしいキラウの群れは、キバを見ても恐れようとしない。数が違い過ぎるからだ。
群れを掻き分け、教授の乗るキラウの元に辿り着く。
「教授……キラウと共に、大陸へ渡るおつもりなのですか」
教授は、水平線の彼方から昇る太陽に照らされながらニヤリと嗤った。
「誰に聞いたか知らんが、この島の竜達に頼まれてワシを説得に来たのか?……ムダな事を。聞いただろう?この島は遠くない内に海中に没する。『生き残ろう』という生物の根元的欲求は、誰にも否定出来ん。偶然にも、それが『今日だった』というだけの話だ」
教授はキラウに合図を送り、「さあ行こう」と声を掛けた。
「待ってください!」
震える声で教授を呼び止める。これが、説得出来る最後のチャンスだ。
そして、これが失敗すれば私は『文明人らしい理性』を放棄しなくてはならない。
「どうしても行くと言うのなら、私は『これ』を海に投げます!」
そう言って、持ってきた『内臓の袋』を掲げる。
教授はそれに一瞥をくれると、フンとばかりに鼻を鳴らした。
「……血の臭いで『ヤツら』を呼ぼうというのか。愚かな。ヤツらはキラウを襲わないんだろう? そんなブラフには乗らんわ」
教授はせせら笑うと、高々と右腕を天に突き上げた。
「さあ行くぞ!新たな船出だ!」
そして、自らが乗るキラウを先頭に海へと入っていく。
ザブリ……と、波がキラウの足先に被る。
それに続いて、他のキラウ達が列を作って順に海へと入っていく。
流石に鰭脚類だけのことはある。
海に入ると途端に速力が上がり、見る間に沖へと進んでいく。
次々と海に入るキラウ達を、私は唇を噛み締めながら見送った。
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