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《ミスティ……やるのか?》
キバが私の方に視線を送る。
私の中で、何かのスイッチが音を立てて切り替わった。ローマにあればローマ人のように振る舞うべきであるならば、今の私は『島のありよう』に沿うべきなのだろう。
「仕方ない、やるわ。……誰か、上空の翼竜を下に呼んでくれないかしら?」
意を決して辺りを見渡す。
すると、コサの長が空に向かって《ケェェェ!》と高い声で鳴いた。
その声に反応し、一匹の翼竜が地面に降りてくる。……大きい。翼の差し渡しで3メートルほどはあろうか。直下までくると日陰が出来るほどだ。
「これをお願い! キラウの前に落としてほしいの!」
内臓の入った袋を翼竜に託す。
翼竜はそれを掴むと、再び大空に舞い上がった。突風で、浜辺の砂が踊る。
沖に眼を転じると、すでに教授達先頭は100メートル以上先を進んでいる。ここまで速いとは……!
その目前に、翼竜が『袋』を落とす。
見る見る内に、近くの海水が赤く染まっていく。
昨日、私は体験したのだ。カイクの腸が強烈な臭いを発する事を。
人間ですら『強烈』だと思うのだ。ならば……。
その『答え』は、すぐだった。
最初に気付いたのは、やはり翼竜だ。
高いところから見ているので、発見も早かったのだろう。《ギィィィィ!》と、激しい警戒音で鳴く。
「あ……アレは!」
カムイが沖を指差す。その先には、三角の形をした大きな背鰭が海面から突き出ている。『ヤツら』ではない。爬虫類の仲間である彼らに背鰭はないからだ。
次の瞬間。
その本体が海面を割って踊り上がった。
10メートル近い巨体。機能美を突き詰めた美しい流線型のボディ。特徴的な白い腹。獰猛な性格を物語る、三角の鋭い歯と冷酷で無表情な眼。それは我々の世界でも『海の白い死神』と恐れられる……。
そう、『ホオジロザメ』だ。
その姿に、カムイの顔が険しくなる。
「ミスティの言った通りになったか……間違いない、アレが悪魔だ」
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