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選択の結果
私は無表情のままに、その殺戮劇を眺めていた。
最初に海中へ没したのは、先頭近くで泳いでいた体長1メートルほどの小さなキラウだった。
何の予告もなく突然に波間へ消え、そのまま戻ってこなかった。代わりに、辺り一面の海水が毒々しい赤色に染まる。
そして、その『血の匂い』が更なる『悪魔』を呼び寄せるのだ。 三角の巨大な背鰭が、ひとつ、またひとつ。次から次へと集結してくる。 激しい水音をたてながら、滅多にありつけない『大きな獲物』に襲いかかっていく。
地上にあってシキテと向かうには有効な武器である立派な『角』も、海中のホオジロザメが相手では何の役にも立たない。
あっという間に、青い海は深紅に染め抜かれた。
事態の急変に慌てたキラウ達が、一目散に浜辺へ引き返し始める。砂浜は絶叫を上げるキラウで大混乱に陥っている。
ジャーレット教授は、海中に沈んで行く腕だけしか見えなかった。
「……。」
カムイも言葉を発することなく、黙ってその成り行きを見守っている。
……私の想像は、完全に正解だった。
カムイ達が使っていたジン語は、大陸のジン族が使っていたものと大差がなかった。
ならば、大陸のジン族が『悪魔』と呼ぶ者はカムイ達も『悪魔』と呼ぶのが自然であって、『知らない』というのは不自然だ。
であれば、大陸のジン族の言う『悪魔』が、ワニの怪物である『ヤツら』を指す言葉である可能性は低い。
そうではなく、彼らにとってもっと異質な『何か』。竜とは違う新世界の枠組みからやって来た、凶悪な刺客……
その答えがこの近海に生息するホオジロザメだと、私は考えたのだ。
『ヤツら』が爬虫類の仲間だとするなら、筋肉に酸素を溜め込める鯨などと違い、あまり長時間は潜れない。だから表層や浅瀬を好む。
それに対して、エラ呼吸のホオジロザメは200メートルの深海でも獲物を狙える。シューティングレンジが広い分、『ヤツら』の縄張りを侵食しているのだろう。
だから、『ヤツら』は縄張りを追われて浜辺近くに集まらざるを得なかったのだ。
……アイとアイトレが、その身をもって教えてくれたと言えよう。
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