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『頼まれた』とは言え、私のした事は正かったのだろうか。
島の秩序を乱しはしたが、ジャーレット教授は彼らに希望を与えようとした。
それに対して私は外界の現実を見せ、彼等から外界に活路を得ようとする希望を奪った。
もう、彼ら竜にはこの島と共に滅びる以外の道はない。
ふと何かの気配に気づき、背後を振り返ると。
そこには、一際大きな身体のキラウが立っていた。
全身ずぶ濡れになり、前足からは出血の跡もある。悪魔と戦って、振り切ってきたのだろう。
《……。》
何も言わず、じっと私の方を見つめている。
そうか、このキラウこそは最初に出会った『彼の者』だ。やっと、その事に気がついた。
思えば皮肉なものだ。
『彼の者』が私に『シキテを探せ』と言わなければ、私はそのまま彼の者に着いていき、今頃はジャーレット教授共々海の上に居ただろう。
だが、彼の者は自分で『それ』を拒否したのだ。
ジャーレット教授にしてもそうだろう。
教授は言ったはずだ。『生き残ろう』という生物の根元的欲求は、誰にも否定出来ん……と。
その言葉に間違いはあるまい。この島で明日に命を繋ぐために、他者の命を奪う事を誰が責められようか。
そう、悪魔とて生きているのだ。
結果、教授は自らの言葉に飲み込まれた。
逆にコサは私を見逃し、キバとカムイは私を受け入れてくれた。
そして、島の秩序を取り戻す事に成功した。それは、例え一時的にせよ彼らの望みを叶えた形になったはずだ。
思えば未来とは、悪魔のように予告なく水底から我々に襲い掛かってくるものなのだろう。
だが、生きる者たちは皆そうして、誰も知り得ぬ将来に向かって選択した結果に向き合わねばならない。
如何なる結末に、なろうとも。
……私の選択は、この島の未来にどういう結果を導くのだろうか。
少しでも良い方向に向くのだろうか?
いや……例え何が起ころうと、私達はそれを『在るがまま』に受け入れるしかない。
《……。》
彼の者が、何も言わずにゆっくりと身体を反転させる。
そしてそのまま、足を引きづりながら仲間達の群れへと合流して森の奥深くへと消え去ってしまった。
或いは彼の者もまた悟ったのだろうか。
『在るがままに、今を受け入れる他ないのだ』と。
カムイはじっと、その後姿を見守っていたが。
やがて、ポンとキバの背を叩いた。
「さぁ……戻ろう、キバ。弓矢を小屋に置いてきたから、それを持ってまた狩りに出かけないとな」
そして、島に潮風が吹き渡る。
昨日までと同じ今日が始まろうとしてるのだ。
真っ赤に染まった海以外、まるで何事もなかったかのように……
完
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