キラウ

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「あ、あっそうだ! こんな所でじっとしてる訳には行かなかったんだ……!」  我に返り、疲労からまだ震えの残る足でどうにか立ち上がる。   「……。」  辺りを、慎重に伺う。  『キラウ』と名乗った彼の者のような『怪物』が居る以上、他にどんな生き物が居るか分かったものではない。  そう、この眼前に群生しているシダの巨木といい、この島には自分の知識に収まらない生物がまだ山のように居ると思わなければ。 「……いずれ、故郷に帰る事も考えなきゃだけど。今はそれどころじゃないわね……」  ヨロヨロとしながら、それでもどうにか森に向かって歩き始める。  手も足も筋肉痛で酷い状態だし、上り坂になっている足元の砂に靴が沈んで歩き難い事も確かだが。それでも思ったよりかは身体が前に進む。   「……せめて、靴を海水から出しておくべきだったわね。靴が水を吸って気持ちが悪いこと……」  トレッキングシューズが、歩く度にベチャベチャと足に吸い付く。  だがそれでも命があるだけ文句は言えないのかも知れない。  ……一緒の船に乗っていたジャーレット教授や、他の船員達はどうなったのだろうか。  一瞬、その安否が頭をよぎりはしたが、今は考えないことにした。『悪魔』云々は別にしても、この海域には獰猛なホオジロザメも居るのだ。今さら彼らの身を案じたところで何をどうする事も出来まい。    やっと、森の入り口に辿り着く。  奥の方は陽の光が届かない、真っ暗な世界だ。  普通に考えるなら、サバイバルの常識としてこんな闇の中に分け入るのは『あり得ない判断』だろう。何しろ何処から何が襲ってくるか分からないのだ。  しかし今は話が別だ。  どうにかして『シキテ』とやらに合わなければならない。  彼の者は言ったのだ。『シキテは人族と共にある』と。つまり、この島には自分以外に『人類』が住んでいるのだ。  その者たちに会って助けを求めるのが、この島で最も生存の確率を上げる方法だろうから。 「行くわよ……。気をつけながらね」  大きく息を吸ってから、私はそぅ……と森の中へと足を踏み入れた。  
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