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ミスティ
その夜、私達の乗った帆船は時期外れの酷い嵐に見舞われていた。
「ミスティ先生!しっかり捕まっててくだせぇよ!」
色黒の船員が、波しぶきを被りながら船室に座り込んでいる私に声を掛けてくれる。デッキと船室仕切る水密扉は、さっきの暴風で吹き飛んでしまっていた。
「……っ!」
『分かってるわ』と言いたいところではあるが、これだけ揺さぶられる中で下手に口を開ければ、それだけで舌を噛みそうだ。
「こんな時期に時化だなんて! 異常気象にもほどがあるぞ!」
私とともに未開地域の生物調査に参加しているジャーレット教授が、毒づきながらデッキにしがみついている。
確かにそうだろう。
ただでさえハリケーンの頻発コースから外れ、年に数回ほど嵐が来るか来ないかという海域なのだ。それもまったく嵐のシーズンでは無い。未開地域の研究旅行としては、うってつけの時期のはずだったのに。『読み違え』というのなら、これほど派手に間違ったことは無い。
「くそぉ!海流がキツくて、船が流されてやがる!このままだと『悪魔の島』に近づいちまうぞ!」
デッキで、別の船員が叫んでいるのが聞こえる。
その時だった。
「……あぁあぁぁああぁぁ!」
マストに登って遠くを見ていた船員が、呻きとも悲鳴ともつかぬ大声で叫びながら前を指差した。そして、次の瞬間。
ドドォォ……ン!
突然、それまでに無い凄まじい衝撃が船を襲った。複雑な波がぶつかり合う時に出来る、恐ろしい三角波だ。
船首が、あり得ない角度で上に持ち上がると同時に、大量の海水がドッと船内に押し寄せてくる。
「ぐわ……っ!」
短い悲鳴だけを残して、デッキに居たジャーレット教授が漆黒の波間に飲み込まれる。
バキ……バキバキ……ッ!
先刻から辛うじて荒波に耐えていた船体が、ついに限界を超えたようだ。
船室がひしゃげたと思った瞬間、船体はバラバラに砕けて原型を失ってしまった。
「きゃぁぁっ!」
思わず大声で叫んだが、最早なす術はなかった。
私もそのまま荒波の中へと叩き出される。
……船で私に記憶があったのは、ここまでだった。
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