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町から離れた山の上にある私立大学。
ここで僕、吉野深雪は准教授として働いている。
自然に囲まれた立地は交通の便が悪いが、僕にとっては研究対象そのもののような場所だ。
僕の専門分野は動物学で、中でもオオカミを専攻としている。この分野に足を踏み入れて十数年、ずっと狼だけを研究し続けている。
まだ残暑の残る九月中旬、昼下がりの柔らかい日差しを感じながら僕は食堂へ向かった。午後二時を過ぎると人の姿はまばらだ。
窓際のテーブル席に落ち着いて、僕は牛丼をかき入れようとした。
「ハロー、ユキ」
突然そう呼ばれた。軽やかな落ち着き払った声に、僕の胸がどきりと高鳴る。僕は笑顔で顔を上げた。
「ハロー、プロフェッサー」
ルドルフ・ハーゲンはいつも通りの柔和な笑顔で応えた。すらっと長い身体を折り曲げて、彼は僕の向かいへ座った。
「疲れてるな。休めてないのか?」
「ゼミの学生が課題を提出してくれなくてね。まったく、参るよ」
答えながら僕はさりげなく彼を眺めていた。
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