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伯父さん!
そして、とうとう伯父さんは倒れた。
それだけならやっぱりかで済ますんだけど、それだけで済まなかった。
倒れた次の日の朝には伯父さんは実家からいなくなったんだ。動ける状態じゃないのにって、あいつから電話が来たからすぐに実家に向かった。親父は時間がとれなくて俺一人。
実家に着いてすぐ、俺はあいつに連れられて伯父さんの部屋へ向かった。
時間はもう夜中になり、満月が高くのぼっていた。
向かう途中、ピチャン、と水音が聞こえた気がした。
そして、雨も降っていないはずなのに、あの独特の雨が降る直前の臭いが庭に立ち込めていた。
部屋に入ると、何となく生臭い臭いがした。
魚臭いっていうか、血なまぐさいっていうか。
それに、キュウリが食い漁られた跡があった。
キュウリかよ?伯父さんそんなに好きだったっけ?
でも、よく見ると変だった。キュウリの食い口がギザギザだった。明らかに人の歯で食べた跡じゃない。
じゃあ、何が食べたんだ?
それと、あれがなかった。
でっかいでっかいカメ?というか、甲羅が。
川に帰ったか?と俺たちは思った。
実際、その考えは合ってた。
そのカメ?は川に帰ったんだ。
伯父さんを連れて。
ある日、ある日、伯父さんは
でっかいカメに連れられて
竜宮城へ来てみれば
って話。
だったらよかったんだよ。
伯父さんも憧れていた竜宮城の話。
現実はそんなに甘くなかった。
むしろ非常だった。
伯父さんと親父の実家がある地域には、竜宮城とは別の話が強く残っている。
そう。
カッパだ。
川に棲む妖怪。頭に皿のようなものを乗せて、甲羅を背負っている。
キュウリが好物。
人を水辺に、引き込む。
それと、その地域にはもうひとつ。
カッパは非常食として好んで人を食べている。
俺たちが伯父さんの部屋へ行ったとき、部屋から外へ水跡が続いていた。いや、外から部屋へかもしれないけど。
どちらにしても、その先には伯父さんがいる。そう思って後をつけたんだ。
その水跡は家の外へ。
そして、俺と親父、伯父さんが釣りをした川に続いていた。
川に着いて、辺りを見回すと変な音が聞こえた。
水の音、枝が折れる音
ピチャン、パキ、ポキッ、バキッ
そして、
人の呻く
声。
月明かりの下で、影だけが浮かび上がっていた。
大きな甲羅を背負ったなにかと、人の形をしていたはずのもの。
俺たちは怖くて恐くて、その場から動けなかった。
ほんの一瞬だけ、俺は見た。
音をたてているのは枝じゃなくて、人の形をしていたものだった。
伯父さん、だった。
ミイラのようにガリガリに痩せた伯父さん。
腕を割かれ、足をもがれ、乾いた音を立てながら喰われていく。
まるで、乾物のスルメを食べるかのように易々と喰らい尽くしていく影。
音が止み、影がひとつだけになった頃。
甲羅を背負った影は満足そうに体をぐぐっと伸ばすと、川に入っていった。
最後に、ちゃぽん、という音と共に甲羅は水に沈んだ。
川の脇の草むらからは、虫の鳴き声だけが聞こえていた。
俺たちは泣きながら帰った。
恐怖からなのか、悲しさからなのか。
俺たちは笑われることを覚悟で、ありのままを話した。
不思議なことに、誰も疑わなかった。
遺体がないから、後日寺の和尚さんが実家に来てお経だけ詠んでくれた。
その時に、和尚さんは俺たちに教えてくれた。
年に数回、同じようなことがあるんだと。
ふと甲羅をどこからか拾ってきて、ガリガリに痩せ細っていく。まるで何かの呪いにかかり、体から水分が奪われていくように。
最後には、甲羅を拾ってきた者は「痩せ細る」を通り越して、乾物の様にミイラとなる。
そして、姿を消す。
伯父さんのように。
その先は、俺たちが見た通りなんだろう。
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