発現

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発現

夜に僕が、少しずつ染まる。 人間であったはずの僕のかたちはなくなって、少しずつ違う生き物になってゆく。 びっしりとカラス貝のようになめらかな、 青紫色の鱗がついた体。 蒼玉を埋め込んで、鋭く光る瞳。 魚のように長く、しなやかな藍色の尾。 人魚姫でもセイレーンでもない、 もっと別の何か。 そうだ、これはーー。海馬だ。 海を駆ける馬。 いや、違う。 これはくじら座のくじらだ。 僕の名前は、ミラ。 海を駆けて空を愛する者。 群青色の空はいよいよ深さを増し、 オーロラのように燐光を発してゆらめき、 ついにはひとつに繋がって、 藍色のビロードになった。 呼吸を取り戻した僕は、 空の上で下半身を曲げて、 胎児のように眠る。 やっと、本来の姿になれた気がした。 地上での生活はきっと、 仮の姿だったんだ。 いつの間にかさっきまでの恐怖は、 好意的な考えに変化していた。 僕の心臓は、恒星のように青白く、 脈打ちながら光っている。
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