変化

1/1
前へ
/2ページ
次へ

変化

その日、僕は不思議な夢を見た。 体が真っ青に染まり、 魚の鰓のような耳が生えてきて、 だれもいない静かな藍色の海を、 クラゲのようにひとりで漂っている。 そんな夢を。 夢にしては、妙に生々しい。 両耳には砂か鱗が入ったかのように、 ざらりとした異物の感触がある。 その違和感に耐えられず、 僕はベッドから跳ね起きた。 激しく喉が乾いていた。 それは青い炎で焼かれたように腫れ上がり、 じくじくと傷んでいる。 「まるで人魚姫だな」 咳き込みながら僕は言う。 コップに水を注いで、一気に飲み干す。 ついでに扉を開けて、外に出てみる。 夏の夜風が火照った体を、 少しずつ冷ましてゆく。 見上げてみると、空が異常に青い。 今は深夜三時。 本来ならば、あるはずのない群青が、 そこにある。 晴れていれば月や星が見えるはずだが、 今夜は一切見えない。 光を拒む、不気味な青だ。 いつの間にか僕の体まで、 青く塗りつぶされてしまったみたいだ。 そうだ、確かさっき見た夢も、 こんなふうに青い所から始まってーー。 おかしいな、夢だったはずなのに。 さっきから動悸が止まらない。 僕の顔は、少しづつ青ざめてゆく。 手の震えが足にまで伝わり、 次第に足の感覚がなくなった。 僕の手が、足が、耳が消えてゆく。 さっきまで辛うじてあったはずの声ですら、 何者かによってナイフで削ぎ取られたかのように静かに消えてゆく。 嫌だ、いやだ。 僕は得体のしれないものになんか、 なりたくない。 ましてや人魚になんか。 海の泡になって消えちゃうじゃないか。 そんな僕の気持ちも知らず、 空は容赦なく僕を巨大な絵筆で塗りつぶす。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加