長閑(のどか)な日々

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街で昼食を食べて、家に戻って来た。 朝にはあんなに晴れていた空が、家に着いた頃には、少し灰色になっている。 車を降りて、買ってきた物を祥吾さんと手分けして運びながら、僕は足を止めて空を見上げた。 僕に気づいた祥吾さんも、僕の隣で足を止めて顔を上げる。 「ああ、せっかく晴れてたのに曇ってきたな。ほら、冷えるから、早く中に入ろう」 「うん…。祥吾さんと散歩に行こうと思ってたのに、残念…」 「またいつでも行けるよ」と言って、祥吾さんが僕の肩を抱いて歩き出す。 僕は冷たくなった鼻を祥吾さんの胸に擦り付けて、凍てつく空気から逃れるように、足早で家の中へ入った。 夕飯の鍋の準備が出来た頃に、祥吾さんの友達の松田さんが来た。 車の音が聞こえて、急いで玄関へ行きドアを開けると、頭の上に薄っすらと雪を乗せて、松田さんが立っていた。僕を見て、ニコリと笑って紙袋を差し出す。 「こんにちは、雪くん。今日はいい天気だと喜んでたのに、降って来ちゃったねぇ。はいこれ。お土産だよ」 「こんにちは、松田さん。わぁ…、いつもありがとうございます!」 「いーえ。調子はどう?元気?」 「はいっ、元気です。あ…、でも、まだ何も思い出せなくて…」 松田さんが靴を脱いでスリッパに履き替え、僕と並んでリビングに向かう。松田さんがいつも持ち歩いている大きな鞄を右手に持ち替えて、左手で僕の頭を撫でた。 「いつも言ってるけど、無理に思い出そうとしなくていいんだよ?今は、必要ないから思い出さないだけ。そのうち突然、ポンと思い出すよ」 「はい…」 僕が小さく返事をして俯いたその時、リビングのドアが開いて、祥吾さんが顔を出した。 「晴樹、おまえ春菊苦手だっ…た…。雪っ、どうしたんだ?…おい、おまえ…雪を苛めるなよ…」 「え?いやいやいや、俺は何もしてないよ?ねぇ、雪くん?」 「しっ、祥吾さんっ。僕は大丈夫だから。僕の病状のことを話してただけだから…っ」 瞬時に目を吊り上げて、松田さんに掴みかかりそうな祥吾さんを、胸にしがみついて、慌てて止める。 祥吾さんは、松田さんととても仲が良いから遠慮がない。ズケズケと物を言うしすぐに怒る。特に僕が絡んでくると、烈火の如く怒るんだ。
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