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「起立、礼!」
朝礼が始まる。
今日もいつもどおり、先生の注意事項がだらだら続いて、それで終わりになるはずだった。
それなのに。
「今日はみんなに大切な話がある」
え~なになに、と教室が少しざわめく。
俺も、先生に注目する。
「急な話だが、今月末に井上が転校することになった。いきなりでみんなもさみしいと思うが、親御さんの都合なので仕方がない。
井上がさみしくないように、来週はお別れ会を開いて盛大に送り出してあげよう!
それでは井上、一言頼む」
はい、と井上が立ち上がった。
井上架純。
俺の、好きな子。
「みなさん、先生が今仰ったように、私は今月末に転校することになりました」
井上が立って話し出す。
小柄な女の子。
そして、おとなしくて、控えめな子だ。
でも話してみると、一本芯が通っていて、心の強い女の子だということがわかる。
俺は口下手だから、実はそんなに話したことはなかったが。
「転校は、親の仕事の都合です。
みなさんと別れるのは本当につらいけれど、どうぞあと3週間、よろしくおねがいします」
そういって井上はペコリと頭を下げた。
親の都合、か。それじゃあ仕方がない。
俺たちはまだ中学2年生で、親から離れて一人暮らしできる歳じゃない。
ああ、俺の初恋もこれで終わりか。
ちょっと涙がこみ上げそうになったので、俺は下を向いてごまかした。
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