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帰り道
部活帰り、1番の不安は下校だ。わたし達の学校は山手にあるせいか、人通りがない。
おまけに木々が影を作るため、昼間でも薄暗い。怖がりなわたしは、先輩のすぐとなりに並んで歩く。
「視えすぎる人は、大変だね」
先輩は時々、変な事を言う。暗いところを怖く思うのは、人間の本能だと思うのだけれど……。
「僕は──」
先輩が何かを言いかけた時。
目の前から、知らない男が歩いてきた。
男は病人のように、青白い顔をしている。
男はわたし達に気付くと、唐突に話しかけてきた。
「あの……。探し物をしているんですが。見ませんでしたか?」
……探し物?
「探し物、か……。それは、どんな物だろう?」
先輩がいつもの口調で訊ねる。
「とても、大切なものです……」
男は大事そうに、左手を撫でる。
わたしは怖くなり、先輩の袖を引っ張った。
先輩は涼しい顔で「大丈夫だ」と答えると、また男に話しかける。
「残念だが、僕達には心当たりがない。悪いが、他をあたってくれないか?」
「そうですか。わかりました」
男は丁寧に礼を言うと、そのまま去っていった。
男が居なくなるのを確認してから、先輩に声をかける。
「先輩! 今の人……」
「ああ。無かったね。……薬指が」
どうして先輩は、こんなに冷静でいられるのだろう?
わたしはさっきの男が、ただただ怖くて、落ち着かない。
「明日も、会ったら……。どうしよう?」
震えるわたしの肩を先輩が、励ますようにポンポンと叩く。少しの間を置いて、先輩が答えた。
「明日も、一緒に帰ろう。……気になる事もある」
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