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再会
嫌な予感ほど、当たるものらしい。部活帰りの途中、また、あの男に出会った。
こんなとき、どうしたらいいんだろう?
わたしは怖くなって、先輩の後ろに隠れる。
「僕の後ろに隠れても、丸見えだよ?」
「わかってます!」
小柄な先輩の頭は、わたしの鼻先にある。
やや背の高いわたしは、隠れきれない。
それでもわたし、あの人が、怖い……。
「失礼だが……」
先輩が、男の左手を指差す。
「探し物は、左手の『薬指』かい?」
「ええ。実は、そうなんです」
男が照れたように、頭を撫でる。
「彼女とケンカしたあとに、持っていかれてしまって……。今もきっと、持っていると思います。あの、クソ女っ! よくも、俺の指を……!」
男は、忌々しいという態度で、左手をごしごしと擦る。
「探しているのは、薬指だけ。それだけで、いいんだね?」
先輩が念を押して、確認した。背中越しに、強い怒りを感じる。
「そうです。指さえ、見つかれば。それで……」
スーっと、先輩は男の頭を指差す。
「思い返すといい。答えは、そこにある……。大事なモノの場所を君は、知っているはずだ」
先輩の一言が効いたのか、男は虚ろな目をして、着た方向に戻っていった。
男の姿が見えなくなってから、安堵の息を吐く。
「怖かった……」
「聞かれれば、ちゃんと答えるつもりだったんだけどね。『彼女を探している』と……」
本当にそうだ。あの男は、どうして気付かないんだろう?
「彼女さん、ずっと後ろで、微笑んでいたのに……」
先輩が振り返り、無言でわたしを見つめる。
「どうしました?」
「いや。鈍いって、怖いね……」
先輩の表情は、どこか哀れみを含んでいるように見えた。
「あの、先輩……。それって、さっきの男の事ですか?」
質問するわたしに先輩は「そのままの意味だよ」と答え、微笑んだ。
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