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ふと道の先をみると、何か青白く光る物体が見えた。
自転車? にしては大きい。車にしても大きすぎる? 光は一つしかないし。
大きさ以上に不思議なのは、淡い光が、ユラユラと不規則に漂ってみえること。
……まさか、幽霊?!
逃げなきゃっ。でも、気になるし。
興味津々にわたしは、早足で、かつ足音をさせないように近づく。距離が縮まるにつれ、全体が見えてくる。
……子ども? こんな遅くに?
どうやら、小さな――小学校低学年くらいの子が、道路を踊るように跳ねまわっている。淡く発光するレインコートを羽織り、テルテル坊主のような姿で。
……あれって……なに? 男の子? 女の子?
色んな疑問符が頭をいっぱいにする。
しかし、わたしはその子から、目が離せないでいた。
「おねえちゃん、なに、してるの?」
……不意に背後から声を掛けられた。声のした方を見ると、淡く光るテルテル坊主のような、道路で踊っている子と同じ姿をした子が立っている。
さっきの子が瞬間移動でもしたのかと思い、そちらを見ると、テルテル坊主は変わらずに舞い続けていた。
……二人居た?
さらに増える疑問符。わたしの頭の中はもう、ぐちゃぐちゃになっていた。
「ね、この、おねえちゃん、ヒイのこと、覗いてる」
隣にいるテルテル坊主が、もう一人のテルテル坊主に声をかけると、ヒイと呼ばれた子は、ふと足を止め、近くに歩いてきた。
えっと……どうすれば……?
「どうしたの? セイ」
「この、おねえちゃんが、ずっと、ヒイのこと、見てた」
「ヒイのダンスを? どうして?」
「知らない。でも、ずっと、見てた」
「わかったぁ! ヒイのダンスが、すっごく上手だったからだよ。そうだよね、おねえちゃん?」
突然、ヒイと呼ばれた子が、嬉しそうに笑顔で、わたしに話を振る。
わたしは、頭の中が混乱したまま、声を出さずに、首だけを縦に振っていた。
それを聞いたヒイと呼ばれた子は「ほらね」と自信満々に言うと、さっきまでダンスをしていた場所へトタトタと、スキップ交じりに戻ってゆく。
「じゃあ、続きも見ててね」
え? ……続き? いや、ちょっ……とま……。
「ちょっと、待って!」
大きな声を出してしまった。
ヒイと呼ばれた子が、近くに戻ってきて、二人でわたしの顔を見る。二人の顔を見比べると、二人とも、双子のように同じ顔つきをしていて、二人とも、不思議なものを見るように、首をかしげていた。
「えっと……二人の……」
「あたし、ヒイ!」
「ぼく、セイ」
わたしが質問を言う前に、二人は名前を答えた。求めていた答えとは別ものなんだけど……。
「そ、そうなの……じゃあ、二人は……」
「ダンスをしていたのっ」
「……観察」
また先に答える。やっぱり、求めていない答え。それ以前にセイって子の言った観察って何? 何を観察してたの? わたしか?
「……そ、そうじゃなくて、こんな時間に何してるの? お父さんとお母さんは?」
私が尋ねると、二人は歳相応の興味津々と言わんばかりの純粋な瞳を私に向けた。
「おねえちゃんって」
「大人、なの?」
大人、わたしが? たしかに、この二人から見れば大人に近いかもしれない。それでも、十七歳、高校三年生で受験戦争真っただ中のわたしが、大人であるはずがない。
大人であってほしくない。大人になんか……。
「ち、違うっ! わたしは、わたしは大人なんかじゃない!」
大人という単語を掻き消したいわたしは、目一杯否定してしまった……。こんな、小さな子に。
その拒絶を聞き、この二人は怯えて、どこか行くんだろうなあ。という、わたしの予想に反して、
「なら、子ども、なんだ」
「じゃあ、あたしたちの秘密基地に行こっ! 大人は入れちゃダメなんだよっ」
と、わたしの意思を無視に半強制的に、秘密基地とやらに連行される。
ふたりの光るテルテル坊主に手をひかれて走る夜の道路。
なぜか誰ともすれ違わない。車すら通っていない。
お母さんに連絡しないと駄目かなあ。
そういや、走ったのって何時振りだろ。
考えながら、二人にとっての精一杯、わたしにとっての小走りで秘密基地に向かう。
手を引くテルテル坊主が、電信柱と誰かの家の塀との間を通ろうとする。
これ、わたし通れるの? 危ないんじゃないの? あ、危ない?!
電信柱と塀の隙間を、すれすれの状態で通り。行けたぁ。と思った瞬間、わたしの視界は、ブラックアウトし、耳鳴りのように、歯医者に似たあの、きぃぃーーんという音が頭の中でしていた。
――一瞬、ふわりと花の香りがした気がした。
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