2.……やっぱり、戦場だったのか。

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2.……やっぱり、戦場だったのか。

 今日はどうにもやる気が出ない。と言うより、最近ずっとやる気が出ない。    学校の教室で、友達に話しかけたかったけど、どうにも受験生の女子たちは勉強勉強で、昼休みですら、右手にサンドウィッチ、左手に英単語帳という状態。その英単語帳すらも食べてしまいそうな勢いで勉強している女子に話しかけるなんて、到底できる気がしない。    体育のマラソンで「一緒に走ろうね」なんて言って、一人で走り抜けて行ったあの子はきっと、今度もわたしを置いて行くんだろうなあ。    そんな女子に対してかほとんどの男子は、隣の高校のあの娘が可愛い。とか、昨日のテレビ番組に出ていたあのタレントが。とか、受験戦争真っただ中のこの教室では、場違いな会話を大声でしていてた。  女子に男子はバカだ。黙れ。そう言われていたけど、今のわたしはいっそ、そのバカに混ざってしまいたかった。  でも、普段男子と話をしないわたしには、話しかけるような勇気もなく、結局、放課後まで黙って、教室の窓から、いつも通り晴れ渡った空を見ているしかなかった。    塾でもボーっとしてしまい、いつも通り、教室の真ん中から少しずれたくらいの、目立たない席にいたにも関わらず、注目されてしまった。  私はお前らより何でも知っているし、偉いんだといわんばかりに、ふんぞり返った男の講師に「小鳥遊さん。あなたはこの受験という名の戦争を、生き残る気はあるのですかぁ?」なんて、つまらない怒られ方をしてしまった。    ……やっぱり、戦場だったのか。    帰り道。目一杯に呼吸が出来て、いつもより足取りも気のせいか軽い。  それでも、家に帰るとまた、部屋で勉強しろとか、うるさく言われるんだろうなあ。なんて考えると、帰るのがどうしようもなく嫌になり、家に帰るのとは逆方向に曲がってみた。  おそらく、家と塾の間では初めての寄り道をした。    わたしの知らない道。いや、近所だからおそらく知ってるんだろうけど、暗い中見る道は、昼間見るそれとは、まったく違う一面を見せ、わたしを不安にさせる。    しかし、それとは裏腹に、夜道をフワフワと歩いていると、わたしは自由なんだと思えてくる。それが、思い違いで、一瞬のものでしかないことは心のどこかで分かっているけど、それでも、わたしは酔っているようにその流れに身を任せていたかった。
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