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リセットボタン
「あ~、京子ちゃん。緊張する。」
順平は、緊張して痺れる手を何とかしようと拝むように両手をすり合わせながら呟いた。
「ちょっと。しっかりしてよ、順平君。しっかりカリカリ・カリビアン!」
京子は、両手を頭上でカーブをさせ、その指を揃えてまっすぐにし頭頂部に突き刺し、大きなハートを作るようにして、声を張り上げた。
「なにそれ。いきなり。」
「今日の緊張をほぐすために考えたギャグ。寝ないで考えたんだよ。」
京子の無邪気さに呆れながら、順平は手の痺れが治まるのを感じた。
順平と京子は住宅街の路地を歩いていた。
二人は、結婚の了承を得るために京子の実家へと向かっていた。
順平は京子の父親に挨拶することに緊張していた。
「緊張するなっていうのが無理だよ。だって、京子ちゃんのお父さん、チョー厳しいんだろう?」
「厳しいからこそ、しっかり挨拶してくれないと。ちょっとでもダメだと思われたら、許してもらえないよ。結婚。」
「そ、そうだね。一世一代の大勝負・・・えええっ!」
順平は驚いた。手の痺れが再発した。
心臓が喉から出るんじゃないか、と思うほど鼓動が暴れた。
「けけけ、結婚、ゆゆゆ、許してもらえなかったら、どどど、どうしよう~。」
「もう!しっかりしてよ!あ、そうだ。」
京子は自分のカバンから黒くて丸いものを取り出した。
「はい、これ。お守り。」
京子は黒くて丸いものを順平に手渡した。
「ありがとう。なに?この、昔漫画で見たようなミサイル発射ボタンみたいなもの。」
「リセットボタン。」
「リセットボタン?」
「なんか、怪しげな古道具屋で置いていたの。なにかで失敗しても、三回までならリセットしてくれるらしいよ。」
「へえ・・・。」
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