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順平はいよいよ、わけがわからなくなった。
京子ちゃんの家に着いて、閻魔親父が出て、鼻毛で怒られて、と順平は今までのことを思い返し、あの時の恐怖も思い出した。
途端に手が痺れ始め、それで、間違いない、あの時の恐怖は本物だ、と、確信した。
しかしそれなら、この京子ちゃんの態度と、この状況は一体どういうことだ。
順平は考えた。
そして左手にリセットボタンを握っていることを思い出した。
「あ、もしかして、このリセットボタン・・。」
順平はリセットボタンを見つめ、つぶやいた。
「あ、そのリセットボタン、怪しげな古道具屋で買ってね・・って、あれ、なんで順平君が持っているの?渡したっけ?」
「おぼえてないの?」
「渡したっけ?おぼえてないや。」
順平は小さくガッツポーズを取った。
「どうやら、本当に、さっきの失敗はリセットされたらしい、と。すなわち、お義父さんへの挨拶をもう一度やり直せる。」
そうこうしている間に二人は京子の家に到着した。
「はい、私の家に着きました。約束の午前十時まで、あと十秒!」
「ちょっと待って京子ちゃん!」
「なに?」
「俺、鼻毛出てない?」
「うん。めっさ出てる。」
めっさ。可及的速やかな対処が求められる今、その毛量表現に戦慄が走った。
順平は、京子に叫んだ。
「抜いて!あと三秒!」
断末魔にも似た順平の叫びに、なぜ、鼻毛などという汚いものを恋人といえど赤の他人に触らせようとするのか、と疑問を感じる暇もなく、京子は順平の鼻毛をつまんだ。
「あわわわ!そぉーいっ!」
順平の鼻毛は京子により勢いよくひっこ抜かれた。
それとセットの動作であるかのように順平は玄関のインターホンを押した。
ガラガラッと激しい音をさせながら開いた玄関の引き戸の向こうには、京子の父親が、先ほど見せたのと同じ厳つさで立っていた。
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