約束の確認

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約束の確認

 萌が大樹と出会ったのは数年前、まぁ、いわゆる合コンでのことだった。 偶然にも勤め先の会社が同じビルに入っていたことで、最初から会話が弾んだのだ。とは言っても、彼はそんなに口が上手い方じゃなくて、萌が振る話題に頷く回数の方が圧倒的に多かったけれど。 なんとなく連絡先を交換して、なんとなくやり取りした結果、二人でランチに行くことになった。それが始まりだった。 最初は全くの友人。見た目は好みだったが、自分から頑張ろうと気合を入れるほどの思い入れはなかった。 ただ、勤務地は同じだし、出勤時間も近かったから電車で会う回数も多い。昼休みに行く店も何軒か被っていたし、同業だったこともあって、話題には事欠かない。大樹は決して話が上手い方ではないが、一緒にいてほんわかした空気が流れるのがとても心地良かった。 はっきり付き合おうとなったのは、ちょうど一年前だ。夜に飲みに行くこともあったし、休日にも何度か遊びに行ったりもしていたから、傍目から見れば順調そうに映っていただろう。にもかかわらず、進展しなかった。大樹が曖昧な態度を崩さないまま、ずっとぐだぐだしていたからだ。 自分も積極的には動かなかったからと言われればそれまでだけど、先に行けなかったのは、絶対にその所為じゃない。こうして進展した今だって、まだ問題はつきまとっているのだから。 「明後日は、ちゃんと行けるんでしょうね?」 「うん。もう大丈夫だって言ったじゃん」  大樹はそう言って明るい笑顔を見せた。 『もう大丈夫』最近、彼は頻繁にその言葉を口にする。  何か変化があったのかもしれない。そうは思うが、聞く勇気はなかった。聞いたら、きっとまたイライラしてしまう。これ以上、つまらないケンカはしたくない。 「じゃ、昼前でいい?」 「うん。俺は何時でもいいから。また適当に連絡ちょうだい」 「わかった。またね」  萌はそう言って、取り繕った笑顔を大樹に向けた。それを見て、彼はほっとしたような顔を見せる。それが萌の精一杯の演技だなんて、ちっとも気付かない。 素直に人を信じる、それが大樹の長所でもあり、短所でもある。
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