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プロローグ
「じゃあ、信じていいんだね」
これで何十回目だろう。
それでも萌は懲りもせずに、同じ言葉を繰り返した。
大樹の答えがいつも通りであることなんてわかりきっている。
「当然だろ。俺を信じろよ」
そう告げる彼の瞳を見つめていると、自然と首が縦に動いた。
そして次に口から出てくるのは、これまたいつも通り。
わかったという言葉だ。
もはやこれは癖、いや、条件反射なのかもしれない。
「でもさ、俺、お前を傷付けてばっかりだろ。何で嫌にならないの?」
「…好きだからに決まってるじゃん」
萌はそう言いながら、大樹の胸に飛び込んだ。
穏やかに温かい彼の胸の中で、いつもより少し早い鼓動を聞く。
この音は彼の動揺、ひいては反省心の証だ。
彼もまた苦しんだ。
そう思い込むことで、萌は毎度のこの不毛な言い争いに収束を付ける。
「幸せにしてくれるって言ったでしょ」
「ああ。約束するよ」
抱き締める腕に力を込めた萌にそう告げたのは、彼の本心だろう。
だが、たとえそうだったとしても、叶う望みはきっと薄い。
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