消えたのは、

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「不思議なことに、名前は全員一緒だったんですよね。でも、どう見ても僕の兄弟じゃない。父は……見た目は、何も変わっていないようでした。まぁ、名前が違うと後で知ったんですけどね。父は、兄弟たちの異変に混乱する僕を心配しながら、僕を含む兄弟たちを連れて帰路につきました。その帰り道も、どこか違った。煙草屋さんだったはずの店が、小さな駄菓子屋さんになっていました。隣の家に住んでいたのは佐藤さんだったはずなのに、井上さんになっていました。家の場所と作りは同じだったけど、家の中の置物が知らないものに変わっていました。家で出迎えてくれた母は、母と同じ顔をしていて、でも、顔に見覚えのない大きな古傷がありました。色んなところがたくさんおかしくて、でもそれをおかしいと思うのは、僕だけなんです。そのまま、ただただ時間が流れていきました。だからね、慣れもしますよ」  だってまだ、ずっと続いているんですから。  ひゅ、と喉が鳴る。かたかたと身体が震える。こんなもの、きっと作り話に決まっている。そのはずなのに、淡々と聞こえる彼の声が、本当に悲しそうで、辛そうで。まだ終わっていないのだという声が、あまりに疲れ切っているものだから。  怖いと、ただただそう思った。 「怖い話は、好きです。誰がいるのか判らない暗闇。そんな中で、何が起きても不思議ではないなら。……明かりが点いた時、僕が、本当の弟たちに見つけて貰えるかもしれないでしょう?」  僕の話は、これでおしまいです。  彼がそう言うと同時に、光が見えた。明度の差に一瞬目が驚く。見慣れた光は、耐えられなくなったのだろう誰かが点けた、スマホのライトだった。  ぼんやりしたディスプレイの灯りとは違う、強い光が暗闇の一部を取り払う。  皆が眩しさに瞬きをする中、その誰かの光が、先ほどまで彼の声がしていた方へと向けられて。    そして、そこには――。
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