消えたのは、

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 僕が目を離した隙に遊具の外に出たのか? そんなことはないです。目を離した時間はそんなに長くなくて、その間に遊具の外に出ていけるほど、機敏な子ではなかったんですよ。  そのあたりで、ふと気づきました。  いないのは弟たちだけじゃなかったんです。公園にいた他の親子の姿までなくなっていたんです。  人の声も、車の音も、鳥の鳴き声さえない、やたらに静かな空間がそこにありました。  瞬間、背筋がぞわっとして、全身に鳥肌が立って、一気に心臓が煩くなって。  僕は転げるように、目の前の遊具の中に隠れました。  隠れなきゃいけないと、そう強く感じたんです。見つかったらダメなんだと、そう思ったんです。  何に見つかったらいけないのかも判らないのに。でも、ただ……ただその時は、ひたすら怖かった。穴の外からできるだけ見えにくいように壁にくっついて、身体を縮こめて、息を殺して。自分の心臓の音があまりにも煩くて、外に、何かに聞こえてしまうんじゃないかと思うと、涙が滲んできました。  音はね、本当に何も聞こえてきませんでした。自分の心臓の音以外、不気味に静まり返っていて。おかしいですよね、休日の真昼間だっていうのに。  そんな静かで、でもとても煩い世界がどれだけ続いたでしょう。時計も何も持ってないですし――そもそも確認している余裕なんてなかったですが――感覚が引き延ばされるような、あの感じ。何時間も経ったような気がしました。もしかしたらほんの数秒だったのかもしれませんし、逆に、本当に何時間も経っていたかもしれませんけれど。
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