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あの、と彼が言葉を紡ぐ。そういえば、別に彼は、これで終いだとは言っていなかった。
「僕、最初に五人兄弟だって言ったじゃないですか。一番上に僕がいて、その下に弟、妹、弟二人と続く五人兄弟です。あの時、かくれんぼを終えて、黄昏の夕焼けと濃い闇が同居する中、Bちゃんと一緒に父の元に向かいました。そこには他の兄弟たちもいて、でも、――僕の兄弟たちじゃなかったんですよ」
淡々と彼が語りを続ける。
それは、つまり、どういう……?
「よくよく考えれば、遊具から出てきた時点でおかしかったんです。でも、Bちゃんを見た時の違和感は、てっきり周囲が暗いせいかなと思ったんです。だってまさか、声が同じなのに妹の顔が違うなんてこと、普通有り得ないでしょう?」
でも、有り得なくなかったんですよねぇ。そう呟くように言った声が、奇妙に乾いて聞こえた。
「Aくんは男の子の割に長かった髪がばっさり短くなってますし、つり目気味だったのが垂れ目になって、眼鏡までかけてるんです。Cくんに至っては、スカートを履いていました。Cくんじゃなくて、Cちゃんになっているんです。顔は、Cくんをそのまま女の子にしたら、みたいな子で。顔の変化だけでいうと、Bちゃんが一番激しかったな。顔立ちは、僕の知ってるあの子の面影はあるんですけど、別人でしたからね。Dくんはどうなんでしょう。僕は赤ん坊のあの子しか知らないから、どう違っているのかは判りません」
思わず、彼の声がする方を見た。けれど、視線の先は暗闇に沈んでいて、彼がどんな顔をしているのかは判らない。そもそも、本当にそこにいるのかすら、定かではない。
声はする。一緒に仕事をしてきた仲間である、彼の声が。けれど、けれど、――本当に、それは彼なのか?
この暗闇でそれを確かめるすべは、どこにもないのだ。
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