消えたのは、

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「……暑い」  誰かが半ば吐き捨てるように呟いた。暗闇の中では誰が呟いたのかは判らなかったが、その呟きがこの場にいる全員の総意であることは間違いなかった。  この現代、会社と呼ばれる場所にいて、何故こうも夏の暑さに襲われているのか。答えはごく単純で、停電が起きて電気が止まっているからである。それ故にクーラーは死に、扇風機も動かない。  この辺りに電力を供給している発電所の近くに雷が落ちたのが、停電の原因のようだ。この辺りでは雨など降っていないのだが、発電所の方は結構な降りだったらしい。  部屋に残っているのは同じプロジェクトのメンバーだ。半年に及ぶプロジェクトは大詰めを迎えており、どうせなら今日中に最後までやり切ってしまおう、とメンバー全員で遅くまで残っていたのだが、それが徒となった。  時刻は二十時過ぎ。苦し紛れに開けた窓からは生ぬるい風が時折そよそよと吹いてくるだけで、熱気を拭うだけの力は皆無だ。  作業はもうあと少しで終わるから、電気が復旧するまで待とうということになったのは良いが、こうも暗闇ではすることもない。暇を持て余した誰かが弄るスマホの光だけが、ちかちかと明るかった。  そんな中で、果たして誰が言い出したのだろうか。 「――折角なので、怖い話、しませんか」
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