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釣瓶落とし(♂→♀)
ある村の中央にある一本の大きな木には、とある噂があった。
その噂とは…。
「またあの木の下で、人が襲われたらしいな」
「今回は何とか助かったって聞いたが…」
「ま、襲われても自業自得だな。わざわざ確かめに行くなんて馬鹿のやることだ」
「けどよ、正体不明のままじゃ、おちおちあのへん歩けねえんだぜ?」
「今回襲われた奴、助かったんなら正体見たんじゃねえのか?」
「それが、口が聞けなくなっちまって、家に閉じ籠ってるんだと」
「一体、何を見たんだか…」
そう、噂の内容とは、夜にこの木の下を通ると何者かに襲われると言うものだった。
襲われた者達は皆命を落としてしまう為、襲ってきた者の正体を知ることは出来ず。
しかし、このままでは亡くなった者達も浮かばれないと考え、何人かの村の者達が何度も確かめようと試みていた。
そんな中、また一人の村人が木の下で襲われ、命は取り留めたものの、口が聞けなくなってしまったのだ。
「けどよぉ、あいつ一人で行ったんじゃないんだろ?」
「一緒に行った他の奴等は、あいつが捕まったのを見て逃げ出したらしい」
「たくっ、臆病もんが…」
「本当よ!」
「「「「「!!」」」」」
村の男達が襲われた若者について話していると、突如、女の声が降ってきた。
男達が女の声に驚いて辺りを見回すと、いつの間にか男達の間に一人の娘が交じっていたのだ。
「おめえは、三本杉の所の娘…」
「あたしが一緒に行ってたら、正体を知ることが出来たかもしれないのに…」
「いやぁ、おめえさんには無理だろ」
「なんでよ!?」
「ははっ!嬢ちゃんなら、捕まえられるかもな」
「おじさん、わかってる~」
「なんで嬢ちゃんなら捕まえられるんだ?」
「この娘、男共と一緒に山に入って仕事を手伝ったり、一人で米俵二俵運んだりとそこらの男共より逞しいんだぜ」
「おじさん、あんまり褒めないでよ~」
「ほ~、それなら捕まえられるかもな!!」
「でしょ~」
「ところで嬢ちゃん、親父さん元気か?」
「ん~、まあね…。悪くは無いみたい」
「そうか…」
「ま、父さんは大丈夫よ。それより、その噂あたしが何とかしてみせるわ!じゃあね、おじさん達~」
「おい、嬢ちゃん!…行っちまった」
「あの娘の親父さん、どうしたんだい?」
「お前、知らないのか!?」
「…あの娘の父親、かみさん亡くしてからめっきり弱っちまってな。生活は全てあの娘が担ってるんだ」
「そうだったのかい…」
「でも、あの娘の母親って、そんな年じゃ…」
「………殺られたんだよ、噂の主にな…」
「あの噂を確かめるって言ってたが、大丈夫かね~…」
意気揚々と告げながら娘は立ち去り、男達はその後ろ姿を見つめていた。
男達の元を立ち去った娘は、今夜にでも調べに行こうと思い立ち、様子見を兼ねて襲われて口を閉ざした男の元へ向かった。
コンコン
「あたし。ねえ、大丈夫?話聞いたよ。話したくないなら話さなくて良いから、あたしの話聞いて」
「………」
「あたし、今日の夜あの木の下に行って確かめてみようと思…」
ガラッ
バンッ
「………行くな」
「…なんだ、話せるんじゃない」
勢いよく家の中から出てきた男は、娘の姿をジッと見つめてから口を開いた。
そんな男の様子に一瞬呆けた娘だったが、軽口を叩くと優しく笑った。
娘の態度に男は口をつぐんだが、それでも止めようと腕を伸ばした。
しかし娘はスルッとそれをかわし、「言いたいことは言ったからね」と告げ、去ってしまったのだった。
その夜、娘は父親が眠ったのを確かめてから家を後にし、噂の木の元へとやって来た。
「さあ、正体を見せなさい!」
辺りを見回しながら強い口調で言い放った娘。
一応、護身用にと持ってきた短刀を懐から取り出し、構えながら様子を伺う。
(何も出ないわね…)
ヒュッ
「え…キャッ!?」
何も出ないことに少し気を緩めた瞬間、娘の目の前に何かが降ってきた。
驚いて慌てて短刀を構え直した娘だったが、それよりも一歩早く、何かは娘を捕まえ持ち上げると、勢いよく上昇した。
まさかの出来事に娘は不味いと感じ、持っていた短刀を暗闇の中で必死に振り回した。
瞬間、短刀が何かを切り付け、大きな唸り声を上げた。
「ぐおぉぉぉぉぉ!!」
「当たった!…キャッ」
シュルルッ
「ぐっ…威勢が良い娘だな…。このワシに傷を付けるとは…」
喜んだのも束の間、娘は再び姿の見えない何者かに捕まり、身動きが取れなくなってしまったのだ。
同時に姿の見えない何者かは、娘に話し掛けながら、何かを考えている様子だった。
「オマエもワシを退治に来たのか?一人で」
「そうよ!アンタには母さんを殺されたんだ、他の村の人達もアンタが殺したんでしょ!?」
「ああ。腹が減って仕方無かったんだ。だから食った」
「っ~…」
「しかし、今日は腹が減ってなくてな…。オマエみたいな娘は肉が柔くて旨いのに、残念だ…」
「アンタなんかに、食われないわよ…。大体、食べる気がないなら離してよ!殺してあげるから」
「フハハ!!本当に生きがいい娘だ。そうか、なら殺される前に味見をしておくか」
「え…」
「良いだろう?どうせワシを殺すんだ」
言葉の意味を考えていた娘は、理解すると慌てて逃げようと藻掻き始めた。
しかし、身体に巻き付いている物は解けず、気付けばゆっくりと蠢いていた。
娘は焦りながらも正体を暴こうと目を凝らし、ようやくその正体を見ることが出来た。
けれど、正体を知った娘の胸には絶望しか無くなっていた。
今まで村人を襲っていた者の正体、それは大の男ほどは在ろうかという、大きな首だった。
娘の身体に巻き付いていたのはその口から出ている長い舌で、短刀で傷付けたのも舌だったのだ。
「あ、ああ…、何者なの?」
「ワシはこの木の精霊だ。長い間、オマエ達を見ていたが、オマエ達はワシを気にすることも無くなった。しまいには、切り倒すと言うじゃないか。忘れられたまま切られるのは悔しいからな」
「そんな…あっ!」
「オマエもワシを殺すんだろ?死ぬ前に旨いものを味わっておきたいからな」
言うなり、娘に巻き付けている舌をゆっくりと動かし、身体を舐め回すかのように這わせていく。
衣服の上からとはいえ、身体を這う感覚に娘は戸惑っていた。
「おお~、実にいい味だ。味見しか出来ないのが残念だな」
ズルッ ズルッ ズルッ
「やめ…、離して!」
巻き付いていた舌は娘の身体を包み込み、全てを味わうように蠢いていた。
そしてゆっくりと大きな首の方へと引き込まれ始めていて、娘はその事に気付くと再び藻掻き始めた。
けれど、抵抗虚しく娘の身体は大きな首の口内へと引き込まれ、更に激しく身体中を舐め回されたり、甘噛みされるのだった。
クチュ クチュ
ズルッ ズルッ
カリッ
「やぁっ…、痛い…」
「本当に旨い娘だ。このままこうして、ずっと口の中に留めて置きたいわ」
舌が身体中を這い回り、時々歯を立てられ、娘は段々と抵抗しなくなっていた。
その事に気付いた大きな首は、ここぞとばかりに舌を娘の衣服の中へと侵入させ、直接身体を舐め始めたのだ。
流石に娘もその事に気付いたが、抵抗の余地無く、身体を弄ばれていた。
ピチャ ピチャ
ヌルヌル
ヌチュ
「も…、や、だぁ…、離して…」
「直接の方がより深い味わいだな」
胸の突起は擦りあげられ、大切な部分には舌先を挿し込まれ、娘の意識は半分以上薄れていた。
その時、どこからか娘の名前を呼ぶ声が聞こえ、娘が声に集中すると、大きな唸り声のような悲鳴のような声が響いた。
驚いて意識がハッキリすると、いつの間にか視界が開け、辺りには松明の灯りが幾つか灯っていた。
「え…、ここは…」
「生きていたぞ!!」
「大丈夫か!?」
「あれ?あんた、家から出てこれたの?それにおじさんたちまで…」
松明の灯りに照らされた顔は皆見知った顔で、娘の頭は必死に状況を整理していた。
そんな娘に気付いた男が、ゆっくりと事情を説明してくれた。
娘のことが心配で様子を見に来たこと、同じ理由で他の人々も集まったこと、短刀を見つけ娘の危機を知り力を合わせて大きな首を切り殺したことなど。
話を聞き終えた娘は、ふと木のことが気になり、振り返ると木は形を保ったまま無事だった。
「皆、まだ終わってないよ」
「どういうことだ?」
娘は大きな首に聞いたことを全て話した。
村の者達は話し合った結果、その木を切り倒さず、奉ることにしたのだった。
それ以降、村人が襲われることは無くなったと言う。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「話を聞いてて、ほっとく方が無理だろ」
「引きこもってたのに…」
「お前が無理矢理、家から出させたんだろ?それより、よく食われてて平気だったな」
「………味見だったから…」
「はぁ?」
終わり
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