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その子であるイラにも相応に価値があるからだ。
山岳調査に来た人間だとか、よっぽどネジの外れた旅行者だとかがいる時は、イラは荷物持ちやら案内人として山を登ったりする。
例のαは『危険だから止めさせろ』だとか『何かあったらどうする』だとか言っている。が、マキは『好きにしたら良い』と送り出してくれる。なんならマキは、顔に傷の一つでも作って帰ってくればいいと思っているらしかった。
そういった仕事がない時は、近隣の家の子と一緒に数キロ先の放牧場へ家畜を連れていってそして帰ってくる。そんな日常をゆっくりと過ごしている。
あまりにもこの山の下の世界は遠すぎる。
常に土と砂埃とで汚れているような自分が、『αが必死になるほど』価値のある人間だとは思えなかった。周囲の人間はβばかりで、βにはΩのフェロモンは一切届かない。イラはこの村ではただのβと変わりのない存在だ。
それでも、イラは男性Ωだ。
その価値を思い知らされる日は、唐突にやってきた。
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