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引っ張るようにして、Ω男性用の宿舎と言う名の小さな家に連れて来られた。
アルがここの庁舎に勤務しているから、αやβと混ぜるわけにもいかず与えられたものであろうというのは想像に難くない。
内装も外見も普通の民家だ。
一応、二人で生活する前提で家具などが置かれているが、今までの入居者はアルしかいなかったに違いない。
人形のように椅子に座らされて、小さなテーブルを挟んで向かいにアルが座る。
「なんの話、する?」
「さあ。というか、Ω同士で顔を突き合わせたらどういう話するの」
繊細な生きた人形のような彼女らが一体どういう話をするのか、イラには想像も
つかない。昔見たΩの少女達はそもそも言葉を発することがあるんだろうか。
男性Ωはマキにしろアルにしろイラにしろ、好き勝手に話す生き物だが。
「あー、そうです。意中のαのこととかお話されてましたよ。つまり恋バナするんです? 僕らもします?」
「恋って……俺は別に面白い話ないけど」
「えー。同じ隊にαが二人もいるのに? なにもないと、そんなことないとおもうのですよ。だって、先程橋の上で楽しそうにしてたじゃないですか」
見てたのか。どこから見ていたのか知らないが、タイガといるところは確実に見ていた。疚しいことはなにもない。なにもないが、イラは少し落ち着かなくなってくる。
タイガといるところを見ていたということは、イラがぼんやりしているところも見たわけで、それは良くない。疚しいことはなにもないが、イラにとっては良くない。
タイガのことを気にしているのがバレバレ過ぎて、良くない。
「俺のことはとりあえず置いとかない?」
「それでどっちを落とすんです? 両方とも落とします? 両方とも面白そうです、よね。先に何処か行っちゃった方は難しそうだけど」
「話聞いて。俺のことは置いといて。というか、両方って……随分なんか……あんたっぽくないこと言うな」
この天使みたいな青年から、二股したら面白そうだなんて発言が出てくるとは思ってもいなかった。
アルは少し首を傾げる。その様子は、純真無垢そのもので、自分の聞き間違いじゃないかとイラは思う。そうであって欲しい。
「僕なら両方とも転がして遊ぶかなと思ったので」
聞き間違いではなかった。
やわやわとしたアルの笑みの裏から、悪魔がこちらを覗いている気がした
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