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運命。
一度、頭の中でその言葉を反芻して噛み締めてみる。なんの味もしない。紙か何かを必死に噛んでいるような気分だ。
タイガが運命の相手。だとしたらどうなんだ。イラにはタイガが運命の番だとか全く感知できない。けれど、タイガはαの本能的にそう感じている。
それは物凄いすれ違いだ。イラにとっては全く痛くないが、タイガにとっては耐え難い苦痛を伴うようなすれ違い。
αは運命のΩに振り回されることになる。
この世の支配者足るαには似つかわしくない致命的な欠点な気がした。
「なあ。それさ、運命とか本気で言ってる?」
「9割本気なのです。
ねえイラ。αって世間が思っているより完璧でも強い生き物でも無いのですよ」
アルはにっこり笑うと、チョーカーを外してテーブルに置く。
「イラに婚約者のことお話しさせたのだから、僕も自分のことを話さないとですよね。僕の最初の婚約者はなんだかよく分からないけれど、死んでしまいました。呆気なーく」
彼は笑顔のまま、自分の頸を軽く撫でる。少し頸を横に向けると、細い指の下から噛み痕が覗く。
番からΩは離れられない。αを失ったΩは死に至る。そんな話をイラも知っている。
「番を失ったΩは生きていけないとかいいますが、僕は死んでないのですよ。健康そのものなのです」
「確かに。あんた、死にそうにないしな」
「不思議ですねー。きっとですね、αとΩのことって秘密だらけなのですよ。
だから、思ったよりαは可哀想な生き物かもしれないし、運命だってある…のかもです」
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