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アルがチョーカーを慣れた手付きで首へと戻す。
アルの言う最初の婚約者、が送ったものなのか。それとも、それ以降に誰かが送ったものなのか。
なんとなく気にはなったが、会ったばかりの人間が踏み込んで良い場所ではないだろう。
「そんなことより。明日、デートするのでしょ?」
「誰と誰が?」
「んー、イラとあの優しそうなα君」
「デートって……何が、遊びにいくだけだけど」
「あの反応は男友達と遊びにいくようなものではなかったのですよ、イラもあのこも」
イラは意味もなく叫びそうになる自分を抑える。変な声が出そうだ。恥ずかしいのか、遠慮なく踏み込んでくるアルに苛立っているのか、ぐっちゃぐちゃな感情がぐるぐると渦巻いている。
それか、アルに物事の核心をつかれていたたまれないのか。
タイガのことが恋愛感情として好きかどうかなんてわからない。
そんなことをずっと考えていた。好きだって言える理由を探していた。もしかするとタイガの好意から逃げる口実を探していたのだろうか。
頭で必死に考えていたけれど、もう答えは出ている。あの日からずっと少年のことを想っていて、彼がタイガだと知ってからずっと意識し続けている癖に、好きじゃないなんて嘘だ。
イラもタイガに負けず劣らず、馬鹿みたいに一途でどうしようもない。
深いため息が出る。そのままずるずると上半身がテーブルに崩れ落ちた。
「あれ、もしもーし」
アルがイラを揺すってくるが、顔があげれない。間違いなく情けない顔をしている。
「……。ちょっとからかい過ぎちゃったんです。とりあえず、後悔しないようにね」
アルはクスクスと笑うと、椅子から立ち上がった。
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