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6.水平線
イラよりもアルの方が張り切っていた。
どうして他人の色恋沙汰に、そうも肩入れして乗り気になれるのかイラには全くわからない。
理解できない上に、尽くしてもらってこんなことを言うのは申し訳ないが、若干不気味でもある。
朝起きてから、アルはああでもないこうでもないとイラをカスタマイズしていた。
今はイラの癖がある髪を上機嫌で梳かしている。
「あのこはどんなのが好みです?」
「知るか、そんなもん」
「あらあら。あ、言うまでもないです? だってイラのことしか見えてないのですよね」
アルの言葉にイラは噎せた。
確かにそうだ。十年近く、タイガはイラのことしか見えてなかったわけだ。タイガの好みのタイプを聞けば間違いなく『君に決まってる』と返ってくる。
そんなこと考えもしなかったが、第三者から何気なく突きつけられると小っ恥ずかしい。
「じゃあ、無理に綺麗に纏めようとか思わなくていいや。イラはこのくるくるーな癖っ毛のほうが可愛いですし、ね」
「ほんと、もうやめて。あいつに合う前に恥ずかしくて死にそう……俺」
アルは恥ずかしげもなく可愛いだのなんだのと言ってくる。それがイラにはどうにも耐え難い。
βに囲まれて生きてきて可愛いだなんて言われ慣れてないし、そもそも自分が可愛いだなんて思ったこともない。
アルに可愛いと言われるたびに床に埋まりたくなるほどの羞恥を覚える。
「可愛いと言われた程度で死んでいるようではΩとして失格なのです」
「俺はとっくの昔にΩ失格してるし」
「αはΩを可愛いと持て囃すためだけに存在してるのですよ、イラ」
「いや、流石にそれは違うってわかる」
今更言うまでも無いが、アルのαやΩに対する考えはかなり独特で歪んでいる。
自分や自分の親も含め男性Ωにまともなやつはいないのかもしれない、そうイラは思った。
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