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可愛い服を着せたいと迫ってくるアルをなんとか諭して宿舎を脱出した。
タイガに会う前にかなり疲れた気がする。アルと馬鹿騒ぎしたせいで、タイガについて色々と考えなくて済んだとも言える。考えていたら、嫌になって約束をすっぽかしたかもしれない。
待ち合わせ場所にはタイガの方が早く着いていた。イラはタイガに気付いたが、向こうは気付いていないようで橋の上でぼんやりしている。
気付いていないなら、遠巻きにタイガを観察してやろうとイラは思った。気付いたらすぐに寄ってくるに違いないし、今までもタイガは何かと傍にいたがった。距離が空いていた時は、そもそもまともにタイガの存在を認識していなかった。
そのせいかタイガを遠くから眺めるというのは、イラにとって妙に新鮮だ。
αは嫌味なくらい整った顔をしている。タイガも例に漏れない。けれど何処か親しみがあるのは、本人の性格のせいで凛とした表情をしていることが少ないからだろう。今もやや気の抜けた表情をしている。背が高くて体格がしっかりしていて、いるだけで画になる。
絵画から抜け出してきただとか、物語の世界の住人だとかそんな存在。
神は色々とタイガに与えた分、ちょっと残念な性格に仕上げたらしい。その上、自分のような何か取り柄があるわけでも家柄が良いわけでもない人間を盲目的に好きだとか笑えるな、とイラは思った。
「イラ!」
思ったより早くタイガに気付かれた。タイガは笑顔を浮かべると、軽く右手を振ってみせる。小さい子供かお前は、と思ったが口には出さない。
変に繊細なタイガのことだから、傷付くに決まってる。
今来た風を装ってタイガの元に行く。しばらく眺めていたのは悟られたくない。単純に気恥ずかしい。
「あー、またせた?」
「待ってないよ」
そう言うとタイガはしばらくイラを見つめる。タイガの碧の瞳に見つめられると、少し心臓に悪い。タイガの瞳には妙な魔力があるような気がしてならない。彼からαを強く感じる時、その碧に射抜かれて逃げられなくなる。そっとイラは目を反らした。
「……何か気に触るようなことしたかな」
「なんかあれだ。タイガに見つめられると落ち着かない」
「そんなこと言われても! だ、だいたいイラだって……その凄く綺麗だからさ、ちょっと目のやり場に困ったりすることあるんだよ、君わかってる?」
タイガからの予想外の反撃に、イラは言葉に詰まる。タイガは前もイラのことを『綺麗』と表現した。可愛いと言われるのも困るが、綺麗と言われるのも混乱する。じゃあ何と言われたいのかと聞かれれば、そんなものイラ自身にもわからない。なんとかかんとかタイガへの返事を絞り出す。
「お前、なあ…。しょ、正気じゃない。俺のこと綺麗とか言うけどさ、何言ってるんだか」
「イラ、鏡見たことある?」
「あるわ」
「じゃあ、自覚ないんだね」
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