6.水平線

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「俺、いつか君の育った場所に行ってみたいな」 「来たら良い。歓迎する」 マキは今、下界にいるけれど、そのうちあの集落に戻るに違いない。マキはタイガと会ったらなんて言うんだろうか。 邪険に扱うようなことは絶対にないだろう。けれど、タイガはマキに上手く転がされて遊ばれそうな気はする。 タイガはからかいがいのあるやつだし。 「ねえ、イラ」 「どうした?」 「君は……この部隊が解散になって全てが片付いたら、元いた場所に帰る?」 「あー……それは……」 未来の話。この先のことをイラは真面目に考えた事はない。 今は成り行きでこの部隊に配属されて、なんとなくタイガとこの場所にいる。その先。自分たちが集められた目的が果たされた、その先。 育った場所に帰るのだとは思う。そしてどうするのかは、想像がつかない。以前のようにポーターをして過ごすんだろうか。以前は、あの少年を待ちながら生きてきた。今は、もうタイガに出会ってしまった。『もう一度再会する』約束は果たされてしまった。だから、もうあの場所で待っている必要は無くなってしまった。 『迎えに来る』ことを待っていない自分の日常生活がイラには想像がつかない。それほどまでに、あの約束は深く染み込んでしまっていた。 「わからない。わかんないわ、俺どうするんだろ。あの時約束した相手がタイガだって知る前には戻れないからさ……」 今は毎日タイガと顔を合わせて当たり前のように話しているけれど、これが当たり前じゃなくなる。タイガはおそらく会いに来るだろうし、異常なまでに一途だから心変わりするとかそういうことはないだろう。けれど、寂しいとは思う。 それを素直に口にできないのが、自分の良くないところだとイラは思う。 「タイガはどうすんの? 」 「家から見捨てられているような存在ではあるけど、権力争いだのに巻き込まれる可能性もある。政治の道具にも家同士の関係性を強化するための駒にもなりたくない。 ……イラ。俺は何もかも捨てて、君と一緒にいたい」 「……お前、本当に俺のこと好きだな」 「好きだよ。イラは俺の生きる意味だから。これまでも、これからも」 タイガは真剣な表情で照れもせずに、イラのことを真っ直ぐに見つめて恥ずかしいことを言う。タイガはそういうやつだ。イラが捻くれてる分、タイガは馬鹿正直で素直。タイガのそういうところは困惑するけれど嫌いじゃない。 どうしようもないくらいイラのことが好きなくせに、あくまでもイラの意思を尊重しようとしている。もうちょっと強引でも許されるだろうに。 タイガはずっとイラの返事を待ち続けるつもりなんだろうか。 「じゃあさ、一緒に暮らす?」 提案して急激に恥ずかしくなって、海の方へ顔を向ける。タイガがどんな表情をしているか見たかったが、顔が見れない。抜けるように青い空。それと対になる海。どれだけ見ていても飽きないけれど、今はそれどころじゃない。 「君、それは……本気?」 冗談。そう言ってしまいたい気分に駆られるが、ぐっと堪える。
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