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1.星降る夜に約束を
この国で一番空に近い場所。
下界の異国人達がやって来て、下界と切り離されたような標高の高いこの村を勝手に支配下に置いていったのは、もう数十年も前のこと。だからといって、下界の人間はあまりこの村までやって来ない。来るのはよっぽどの物好きか、山岳調査をしに来ただとか言う人間達。
ここから下った場所にある少し大きな町には、この辺り一帯を治める『御領主様』の御屋敷がある。その町にはそれなりに下界の人間がいる。
小さな村で育ったイラはこの『下界の人間達』に興味津々なのだが、彼の親は『あれはろくでもない連中だから近寄るな』と言う。
彼の親は男性Ωだ。そしてイラもΩだ。
男女とは別の第2の性。α・β・Ω。
人の上に立つ存在、生まれながらにして優秀な存在とされるα。その下で生活している人類の大多数のβ。そしてαに飼われるようにして生きているΩ。
発情期があり虚弱とされるΩ、迫害されてきた歴史もあった。が、αはΩがいなければ生まれない。Ωが迫害により数を減らせば同時にαも数を減らすことになる。世界を牛耳るα達はΩを囲い込み、より優秀なαをのこす方向へと舵を切った。
美しいΩをどれだけ囲えるか、より良い血筋のΩを自分の伴侶や妾に出来るか。それがαの一種のステータスになっている。
男性Ωは殆んどβ男性と変わりはない。発情期も、年に一度程度で軽い者が多い。子供を産むことも出来るが、受胎率がかなり低くかなりの難産傾向にある。
血を繋ぐために、男性Ωを囲う意味は殆んどない。が、物珍しさ故に男性Ωを囲いたがるαは少なくない。
イラの親であるマキも、囲われているΩの1人だ。
αの元に居るのが嫌になって、生まれ故郷であるこの村にイラを連れて帰って来た。Ωは一般的にストレスに弱いものとされている。ストレスをかけて体調を崩して死なれるよりはと、マキを自由にさせている。
イラは自分のもう1人の親であるαには数える程しか会ったことがない。凄い肩書きを持った人らしいが、イラは顔すら朧気にしか覚えていない。
自分の言うことを聞かないΩなど面倒なことこの上ないに違いない。それでも好きにさせて生活の援助までしているあたり、よっぽど手放したくないのだろう。
それはただ、マキが魅力的な男性Ωだかたというだけではない。
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